寒水の掛踊

寒水の掛踊：豊穣を祈る太鼓の響き

寒水の掛踊は、岐阜県郡上市明宝寒水に鎮座する寒水白山神社の祭礼で奉納される伝統的な太鼓踊りです。その文化的価値の高さから、国の重要無形民俗文化財に指定されています。この掛踊は、地域の人々によって大切に受け継がれ、豊作への祈りと感謝を込めて奉納されてきました。

郡上における掛踊の位置づけ

掛踊は、風流踊りの流れを汲む太鼓踊りで、郡上市内各地の神社に伝わっています。かつては多くの地域で見られた踊りですが、現在では明宝寒水のものが最も規模が大きく、定期的に奉納されています。その他の地域では、不定期の奉納となっていたり、残念ながら廃止されてしまったものもあります。

踊りの特徴は、長さ約5メートルものシナイを背負い、太鼓を抱えた4人の若者を中心に、様々な役割の人が輪になって歌と拍子に合わせて踊ることです。シナイの構造や歌の歌詞は地域によって異なり、多様性が見られます。郡上地域では、太鼓踊りは豊年踊りとして伝えられていますが、一部地域では雨乞いの意味合いも残っています。これは、雨乞いが成就したことへの感謝として豊年踊りが奉納されたという歴史の名残と考えられています。

寒水の掛踊の特色

寒水の掛踊は、郡上市に伝わる掛踊の中でも最も規模が大きく、地域を代表するものです。元々は別の村に伝わっていた祭礼でしたが、18世紀初頭に寒水村へと伝えられました。踊りの名称には、豊作祈願の「願掛け」の意味と、村同士が踊りを「掛け合う」という意味の2つの説があります。

祭礼は、様々な扮装をした踊り手が、打ち出し宿と呼ばれる場所で踊りを披露することから始まります。その後、行列を成して白山神社へと向かい、境内で「お庭踊り」を奉納します。踊りの中心となるのは、竹で作られた花飾りであるシナイを背負った鉦引きと太鼓打ちです。彼らは、独特の旋律に合わせて、時にシナイを地面に打ち付けるなど、エネルギッシュな踊りを繰り広げます。

祭りの最後には、役者と見物客が一体となって輪になり、様々な踊りを踊り、掛踊の興奮を分かち合います。この一体感こそが、寒水の掛踊の魅力の一つと言えるでしょう。

歴史と伝承

寒水の掛踊は、明治時代に一時中断された時期もありましたが、地域住民の熱意によって復活し、現在まで大切に受け継がれています。近年では、女性も祭礼に参加するようになり、新たな担い手も育っています。掛踊保存会を中心に、伝統を守りながらも時代の変化に対応し、未来へと繋げていく努力が続けられています。

参考文献

太田成和(編集)・武藤互郎(発行)　『郡上八幡町史 下巻』　1961年
寺田敬蔵(編集・発行)　『郡上の民謡』　1966年
清水昭男　『岐阜県の祭りから 5』　2005年
和田清美　『明宝寒水史』　2011年

寒水の掛踊は、単なる伝統芸能ではなく、地域の人々の祈り、感謝、そして連帯の象徴です。その太鼓の音は、豊穣への願いを込め、これからも郡上の地に響き続けるでしょう。

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