寺越友枝

寺越友枝の物語

寺越友枝（てらこしともえ、1930年 - 2024年2月25日）は、1963年に行方不明になった長男、寺越武志の母親として知られています。友枝の人生は、息子の失踪という大きな悲劇から始まり、家族との再会に至るまでの波乱に満ちたものでした。彼女の苦悩や希望に満ちた日々は、多くの人々に感動を与えると同時に、北朝鮮との複雑な関係を浮き彫りにしています。

長男の失踪

1963年5月、友枝の13歳の長男、寺越武志は、叔父たちと共に小型漁船「清丸」で漁に出ました。その日、一行は北陸の海域に出航しましたが、予定の帰港時間になっても帰ってくることはありませんでした。翌日、友枝は漁船が漂流しているのを発見し、服が海底で見つかるという衝撃の知らせを受けました。捜索が続けられたものの、最終的には武志たちは「死亡扱い」とされ、寺越家は悲しみに包まれました。

友枝は、再び海岸を訪れ、武志が生きているのではと願う心と、母としての後悔の入り混じる思いを抱えて日々を送りました。彼女は、長男を乗せたことを悔やむ中で、愛惜の念が深まっていくのでした。友枝は失踪後の24年間、何度も武志の生存について思いを巡らせました。

生存確認と再会

1987年1月、友枝は思いもよらぬ便りを受けました。武志の叔父である寺越外雄からの手紙で、彼と武志が北朝鮮で生きていることが示されていたのです。外雄の手紙によると、武志は金英浩（キム・ヨンホ）という名で家庭を持ち、幸せに暮らしているとのことでした。この手紙が届いた時、友枝の心は歓喜で満ちていました。

友枝は、彼に会うための道を探し、様々な機関に手紙を送り、やがて1987年8月に日本社会党の訪朝団に同行して北朝鮮へと渡りました。その再会の瞬間は、彼女にとって喜びに満ちていたものの、それと同時に深い思いを抱える瞬間でもありました。彼女が武志に「母ちゃんに会えなくてつらかったやろ」と尋ねると、彼は「神子原のばあちゃんに会いたかった」と返答しました。この言葉は、母としての自分に焦りと後悔を抱かせました。

再会後も、友枝は北朝鮮を訪れるたびに武志と会う機会を得ましたが、それは自由な面会ではなく、制約された状況でのものでした。それでも彼女は、息子を日本に帰したいという思いを抱き続けました。1997年の訪問の際には、武志の戸籍を回復させるための運動も行われ、最終的に武志は法的に日本人として戻ることができました。

訪朝とその後

寺越友枝は1987年以降、何度も北朝鮮を訪れるようになりました。当初は数年ごとの訪問でしたが、その後頻繁になり、家族との交流を続けていました。しかし、彼女の訪朝には多くの困難が伴い、経済的負担や周囲からの偏見とも闘っていました。友枝は「これまでできなかった親らしいことを、今しているだけです」と周囲の批判に反論しつつ、愛する息子に寄り添い続けました。

2024年2月25日、友枝は92歳で亡くなりましたが、彼女の生き様と家族への深い愛情は多くの人々の記憶に残ります。友枝の物語は、悲劇や苦悩、そして再会といった人間の感情を描き出し、忘れられないものとなっています。

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