尊厳の革命

尊厳の革命（ユーロマイダン革命）：ウクライナの激動とその後

2014年2月、ウクライナ首都キーウでは、民主化を求める大規模な反政府デモ「ユーロマイダン」が、政府による武力弾圧によって流血の衝突へと発展しました。この革命は、ウクライナの政治・社会に大きな変化をもたらし、東部での親ロシア派反乱やクリミア併合といった国際的な波紋も呼び起こしました。本稿では、この歴史的事件の背景、経過、そしてその後の影響について詳述します。

革命の背景：EU協定拒否とヤヌコーヴィチ政権

ソ連崩壊後、ウクライナは汚職、経済停滞、政治不安など様々な問題を抱えていました。2000年代にはEUとの協調関係を目指し、EUとの連合協定締結交渉を進めていました。しかし、当時大統領であったヴィクトル・ヤヌコーヴィチは、ロシアとの関係を優先し、協定への署名を直前で拒否。この決定が、国民の反発を招き、ユーロマイダンの発端となりました。ヤヌコーヴィチ政権は、国民の怒りを買わせる数々の政策を採り、その中には公共施設の破壊も含まれていました。さらに、ヤヌコーヴィチ政権は、ロシアとの巨額融資協定を締結、国民の反感をさらに煽りました。

革命の経過：平和デモから武力衝突へ

当初、ユーロマイダンは比較的平和的なデモでしたが、2014年2月18日以降、政府による弾圧が激化し、キーウの街頭は激しい衝突の舞台となりました。警察は催涙ガス、ゴム弾、実弾を使用し、抗議者側も石や火炎瓶などで抵抗しました。独立広場（マイダン）周辺では、多数の死傷者が出ました。

2月20日には、ザハルシェンコ内務大臣が抗議者への実弾使用を許可する命令を発表。この命令は、抗議行動の激化に拍車をかけました。しかし、2月21日、ヤヌコーヴィチ大統領は野党指導者と危機回避の合意に署名。憲法改正、早期大統領選挙などを約束しました。

しかし、この合意はすぐに破られました。ヤヌコーヴィチ大統領はキーウを脱出し、ロシアへ亡命。議会はヤヌコーヴィチ大統領の失職を宣言し、トゥルチノフ議長が大統領代行に就任しました。

外国の関与：ロシアとアメリカの影

この革命において、ロシアとアメリカ合衆国の関与が指摘されています。ロシアは、ヤヌコーヴィチ政権崩壊をクーデターとみなし、ウクライナへの軍事介入を開始しました。ロシアは、抗議活動の鎮圧に向けウクライナ政府に圧力をかけ、資金援助を行い、政府高官への助言を行ったとの情報もあります。

一方、アメリカ合衆国も、ウクライナにおける政権交代に何らかの形で関与していた可能性が指摘されています。特に、ヌーランド国務次官補とパイアット駐ウクライナ大使の盗聴された会話は、アメリカがウクライナの政治に介入していたことを示唆しています。

革命の余波：クリミア危機と東部紛争

ヤヌコーヴィチ政権の崩壊後、クリミア半島では親ロシア派勢力が台頭し、ロシアによる併合へと繋がりました。また、ウクライナ東部では、親ロシア派武装勢力による反政府活動が始まり、現在に至る紛争へと発展しました。

革命の評価：民主化への一歩か、新たな混乱の始まりか

尊厳の革命は、ウクライナの民主化に向けた重要な一歩であったと評価する声がある一方で、東部紛争やクリミア併合という新たな混乱を生んだとも指摘されています。この革命が、ウクライナの将来にどのような影響を与え続けるのか、今後の動向に注目が必要です。

参考文献

外務省「ウクライナ基礎データ『略史』」 令和4年1月4日
岡部芳彦著「マイダン革命はなぜ起こったか―ロシアとEUのはざまで―」 第2版 日本ウクライナ文化交流協会編集：ドニエプル出版、2019
松里公孝『ポスト社会主義の政治 ――ポーランド、リトアニア、アルメニア、ウクライナ、モルドヴァの準大統領制』 ちくま新書,2021.3.
下斗米伸夫「ウクライナをめぐるロシアの政治エリート（1992–2014）」ロシア・東欧研究43号、2014年,p21-42

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