尋有

尋有（じんう）

尋有（じんう）は、鎌倉時代に活躍した天台宗の僧侶です。生没年は明らかになっていません。父は日野有範であり、彼は浄土真宗の開祖として知られる親鸞の弟にあたります。日野家は藤原北家日野流の公家であり、多くの高僧や歴史上の人物を輩出しています。尋有もまた、この日野家の血筋を引く人物として、仏道を歩みました。

生涯

尋有の具体的な生涯についての詳細は、残念ながら多くは伝わっていません。伝えられていることの一つに、彼が幼くして比叡山に登り、そこで出家得度したということがあります。比叡山は、平安時代以来、日本の仏教の中心的な存在であり、多くの高僧がここで修行を積み、それぞれの宗派を確立していった霊地です。幼い頃から比叡山で仏門に入ることは、当時の僧侶にとって一般的な道程でした。

尋有自身の僧としての活動や業績に関する記録は少ないものの、彼の名が後世に伝えられているのは、兄である親鸞との深い関わりによるものです。特に重要なのは、親鸞が弘長二年（一二六二年）に生涯を閉じた場所が、尋有の住まいであった「善法坊」であったと伝えられている点です。親鸞は、晩年を京都で過ごしましたが、その最期の時に、弟である尋有の住坊に身を寄せていたとされています。この伝承は、血縁だけでなく、兄弟としての深い絆や、宗派を超えた交流があった可能性を示唆しています。

善法坊の今

親鸞が往生した地とされる尋有の住坊「善法坊」の跡地は、現在、京都市中京区に位置しています。具体的には、柳馬場通と御池通が交差するあたりから北へ上がった東側にあり、現在の京都市立柳池中学校の敷地内となっています。親鸞は浄土真宗において「見真大師」という諡号で呼ばれることもあり、その遷化（高僧が亡くなること）の地としての重要性から、跡地にはそれを記念する石碑が建立されています。

この石碑は「見真大師遷化之旧跡」と刻まれており、明治二十一年（一八八八年）に建てられたものです。この石碑は、尋有の住坊が親鸞の最期の地であったという伝承を現代に伝える重要な手がかりとなっています。多くの浄土真宗の門徒や歴史に関心を持つ人々が、この石碑を訪れ、親鸞がここで生涯を終えたという歴史に思いを馳せます。

系譜

尋有は、父である日野有範の次男です。兄である親鸞は、有範の長男にあたります。日野家は代々朝廷に仕える家柄であり、仏門に入る者も少なくありませんでした。尋有が天台宗の僧となった一方で、兄の親鸞は法然の弟子となり、後に浄土真宗を開いたことは、同じ兄弟でも異なる仏道を歩んだ例として注目されます。尋有を含む日野家の系図については、『尊卑分脈』などの歴史書や、『親鸞伝叢書』、『真宗の教えと宗門の歩み』、『如信上人』、『歴史のなかに見る親鸞』、『誰も書かなかった親鸞-伝絵の真実』といった書籍にその出典が見られます。これらの史料は、日野家の複雑な家族関係や、親鸞・尋有といった人物の系譜上の位置づけを理解する上で貴重な情報を提供しています。

結び

尋有自身の僧侶としての生涯や活動は、兄である親鸞に比べるとあまり知られていません。しかし、親鸞がその最期を迎えた場所が、弟である尋有の住まいであったという事実は、尋有という人物が親鸞にとって身近で信頼できる存在であったことを物語っています。善法坊の跡地に立つ石碑は、単なる地名を示すだけでなく、鎌倉時代を生きた二人の兄弟、そして日本の仏教史における重要な出来事を今に伝える静かな証拠となっています。尋有は、親鸞の弟として、またその終焉の地を提供した人物として、歴史の中にその名を留めているのです。

関連項目

* 日野家

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