小さき者へ

小さき者へ

有島武郎の短編小説『小さき者へ』は、作者自身の体験に基づき、深い愛情と未来への希望が込められた作品です。1917年、有島は妻安子を結核で亡くし、残された3人の幼い子供たちを深く悲しませました。本作は、子供たちを励まし、彼らの未来に光を灯すために書かれたとされています。まるで、父から子へと書き残された手記のような、私的な感情と普遍的なメッセージが織り交ざった作品です。

作品概要

『小さき者へ』は、1918年1月に『新潮』で発表され、同年3月には『白樺の森』や有島武郎著作集第七号にも収録されました。今日に至るまで、有島の代表作の一つとして多くの読者に愛されています。特に、3人の子供たちの中には、後に俳優として活躍する森雅之がいたことも、作品への関心を高める要因となっています。

主要な登場人物

私: 子供たちに向けて「書き物」をする人物。作者である有島武郎自身がモデルであり、子供たちへの愛情と、亡き妻への追慕の念を抱いています。
母: 昨年の8月2日に亡くなった「私」の妻であり、「お前たち」の母親。子供たちに限りない愛情を注ぎました。有島の妻、安子がモデルとなっています。
お前たち: 「私」と「母上」の3人の子供たち。有島夫妻の実子である行光、敏行、行三がモデルです。物語は、父である「私」が子供たちに語りかける形式で進められます。
U氏: 結核を患い、貧困の中で薬を買うも、医者の不注意により命を落とします。老いた母親と幼い子供を残して亡くなるU氏の姿は、当時の社会の厳しさを象徴しています。モデルは有島と親交のあった上田寅次郎です。

テーマ

『小さき者へ』は、死別、家族愛、貧困といったテーマを扱っています。愛する妻を亡くした悲しみ、残された子供たちへの深い愛情、そして貧困にあえぐ人々の姿を通して、人生の苦難と希望を描き出しています。

作品の魅力

この作品の魅力は、何と言ってもその真摯な語り口にあります。作者自身の体験に基づいた感情が、飾らない言葉で綴られており、読者の心に直接語りかけてきます。子供たちへの愛情、亡き妻への追慕、そして未来への希望が、短い文章の中に凝縮されています。

また、当時の社会情勢や生活状況が垣間見える点も、この作品の魅力の一つです。結核という病気が蔓延し、貧困にあえぐ人々がいる一方で、子供たちは未来への希望を抱いて生きています。作者は、そのような社会の中で、子供たちに生きる勇気を与えようとしています。

まとめ

『小さき者へ』は、有島武郎の個人的な体験に基づいて書かれた作品でありながら、普遍的なテーマを扱っており、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。家族愛、死、貧困といったテーマに関心のある方にとって、必読の作品と言えるでしょう。

『小さき者へ』：新字新仮名 - 青空文庫

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