小倉康臣

小倉 康臣（おぐら やすおみ、1889年11月29日 - 1979年1月15日）は、日本の運輸業界に大きな足跡を残した実業家で、ヤマト運輸の創業者として知られています。現在の東京都中央区銀座にあたる東京市京橋区数寄屋町二丁目で生を受けました。

生い立ちから独立まで

銀座で原料紙問屋「川善」の分家を経営していた両親、父・善兵衛、母・もとのもとに生まれ、8人きょうだいの三男であったことから、幼名は八三郎（はちさぶろう）と名付けられました。この名は後に1930年2月に康臣へと改められています。

1902年3月、泰明小学校高等科を卒業後、商工中学校に進学しますが、「川善」の本家廃業の影響を受け、学業を中断せざるを得なくなります。その後、長姉の嫁ぎ先である薪炭商「山登屋」を営む上田家に身を寄せました。

夜間には東京外語学校で英語を学び、様々な工場で働くなど、苦労を重ねました。そして1914年5月25日、24歳で独立を果たします。手車を使い、京橋の大根河岸から野菜を仕入れて銀座、新橋、芝、赤羽橋といった地域で売り歩く「挽き八百屋」として事業を始めました。同年11月には平田はなと結婚し、1916年2月23日に正式に入籍。同年中に麻生市兵衛町に自身の店『万両屋』を開業しています。

運輸業への転身と事業拡大

1919年、東京で日本初の交通整理が実施され、牛馬車に代わって自動車が主要な交通手段となる光景を目にした康臣は、これからの時代は自動車による運輸業が発展すると確信しました。そして、その年の30歳の誕生日を迎えた日、京橋に自動車を使った運送会社、大和運輸株式会社（現在のヤマト運輸）を設立し、専務に就任しました。

創業初期には三越百貨店の市内配送業務を受注し、東京における運輸業者としての地位を確立しました。1927年10月20日には万国自動車運輸会議に出席し、欧米各地の輸送事情を視察するなど、早くから国際的な視野を持っていました。

戦時中は、1938年6月に鉄道省監督局の嘱託、1944年6月27日には軍需省の嘱託を務めました。終戦後、進駐軍の輸送業務を手掛けることで事業を立て直し、1947年3月には大和運輸の社長に就任します。さらに1953年11月20日からは静岡運輸の社長も兼務するなど、多方面で手腕を発揮しました。

業界のリーダーとして

康臣は自身の会社経営だけでなく、日本のトラック業界全体の発展にも尽力しました。関東トラック協会、東京トラック協会、日本トラック協会で会長を務めたほか、東京トラック事業協同組合理事長、東京陸運局の自動車輸送協議会委員、日本縦貫高速自動車道協会理事、交通基本問題調査会委員など、数多くの公職や業界団体の要職を歴任しました。

国際舞台でも活躍し、1954年2月10日にはスイス・ジュネーブで開催された国際労働機関（ILO）の第5回内陸運輸労働委員会に日本使用者側の代表として出席しました。また、1961年8月26日には日本生産性本部の道路輸送専門視察団長としてヨーロッパを訪問しています。

高度経済成長期には、松下電器をはじめとする関西の家電メーカーからの長距離輸送業務を積極的に引き受け、会社の規模を飛躍的に拡大させました。

引退と晩年

1971年3月30日、社長職を次男の昌男に譲り、自身は取締役相談役に就任。その後も会社を支え続けましたが、1977年6月28日には取締役を退任し、相談役として経営を見守りました。

1979年1月15日の夕刻、入院先の朝日生命成人病研究所附属病院で逝去しました。享年89歳。同年1月24日には、東京・築地本願寺において盛大に社葬が執り行われ、多くの関係者に見送られました。

人物像

小倉康臣は、事業に対して非常に積極的で、常に新しいものを取り入れる先進的な気質を持っていました。一方で、短気で強引な一面もあったと伝えられています。例えば、部下が自席にいないだけで激怒したり、自宅で食事がすぐに準備できないと、妻に向かって皿や小鉢を投げつけるようなこともあったといいます。その激しい気性が、事業を切り開く原動力となったとも言えるでしょう。

受賞・受章

日本の運輸業界における長年の功績に対し、多くの栄誉が授与されました。

1953年11月7日：第1回交通文化賞
1959年11月3日：藍綬褒章
1965年4月6日：勲四等旭日小褒章
1970年4月29日：勲三等瑞宝章

家族

康臣の事業は家族へと受け継がれています。

次男：小倉 昌男（おぐら まさお） - 大和運輸の2代目社長として、「宅急便」の生みの親となり、同社を日本の代表的な物流企業へと育て上げました。
孫：小倉 康嗣（おぐら やすつぐ） - ヤマトホールディングスの8代目社長を務め、創業家の経営を継承しました。

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