小惑星のスペクトル分類

小惑星のスペクトル分類は、小惑星の反射スペクトルの形状、色、アルベドに基づいて行われます。これらの分類は、小惑星の表面組成や宇宙風化の程度を反映していると考えられています。内部構造を持たない小さな天体では、表面と内部の組成はほぼ同一であると推定されますが、ケレスやベスタのような大型天体は内部構造を持つことが知られています。多くの小惑星サーベイ観測に基づき、さまざまな分類方法が提案されています。

分類手法

初期の分類

小惑星のスペクトルによる分類は、1975年にチャップマン、モリソン、ゼルナーによって開始されました。この初期の分類では、小惑星の色、アルベド、スペクトル形状に基づいて、暗い炭素質の天体をC型、岩石質の天体をS型、どちらにも当てはまらないものをU型と分類しました。この基本的な分類は、その後拡張され、より詳細な分類スキームへと発展していきました。

現在の分類

現在では、複数の分類スキームが存在し、相互的な一貫性を保とうとする努力がなされていますが、異なる基準を用いるため、同じ小惑星でも分類が異なる場合があります。特に、トーレンの分類とSMASSの分類が広く利用されています。

トーレンの分類

トーレンの分類は、1984年にデイヴィッド・トーレンによって発表され、長年にわたって最も広く使用されてきました。この分類は、1980年代のECAS(Eight-Color Asteroid Survey)で得られた0.31μmから1.06μmのスペクトルデータとアルベド測定に基づいています。最初の分類は978個の小惑星の観測結果に基づいており、小惑星を14のカテゴリーに分類しています。

主なカテゴリー

C型小惑星: 暗い炭素質の天体。
B型小惑星（パラス）
F型小惑星（インテラムニア）
G型小惑星（ケレス）
C型小惑星（ヒギエア）
S型小惑星: ケイ素質（岩石質）の天体。（エウノミア、ジュノー）
X型小惑星:
M型小惑星（プシケ）：金属質の天体
E型小惑星（ニサ、パンドラ）：アルベドが高い。
P型小惑星（アレテイア、イスメーネ）：アルベドが低い。

その他のカテゴリー

A型小惑星（アエテルニタス）
D型小惑星（ヘクトル）
T型小惑星（アエグレ）
Q型小惑星（アポロ）
R型小惑星（デンボウスカ）
V型小惑星（ベスタ）

分類の特徴

トーレンの分類では、最大4つの文字を使用することがあります（例：SCTU）。また、スペクトルデータが「食い違っている」場合は、Iの文字を用います。例えば、テミス族の小惑星アタリアは、スペクトルは岩石質の特徴を示す一方でアルベドは炭素質の特徴を示すため、分類の際に食い違いを示すものとされました。色の数値解析が不明確な場合は、2つまたは3つの分類が与えられ（例：CG、SCT）、文字の順番は数値的な標準偏差の増加順で並べられます。「異常な」スペクトルを持つ小惑星にはUの文字が与えられ、データにノイズが多い場合は、:または::が付加されます。

SMASS分類

SMASS（Small Main-Belt Asteroid Spectroscopic Survey）分類は、2002年にバスとビンゼルによって導入された新しい分類法です。この調査では、トーレンの分類の基礎となったECASよりも高い分解能のスペクトルが得られ、より狭い範囲のスペクトル特徴を判別できるようになりました。観測波長は0.44μmから0.92μmと狭いですが、アルベドは考慮されていません。SMASS分類は、トーレンの分類をできるだけ保持するよう努めており、26のカテゴリーに分類しています。

主なカテゴリー

C型小惑星: 暗い炭素質の天体
B型小惑星：トーレンのB型とF型に重なる
C型小惑星：B型以外の一般的な天体
Cg, Ch, Cgh：トーレンのG型と重なる、hは水和を示す
Cb: C型とB型の遷移型
S型小惑星: ケイ素質（岩石質）の天体
A型小惑星
Q型小惑星
R型小惑星
K型小惑星（エウカリス、エオス）
L型小惑星（ベアトリックス）
S型小惑星
Sa, Sq, Sr, Sk, Sl: S型と他の型の遷移型
X型小惑星: 主に金属質の天体
X型小惑星：トーレンのM型、E型、P型を含む
Xe, Xc, Xk: X型とそれぞれの型の遷移型

その他のカテゴリー

T型小惑星
D型小惑星
Ld型小惑星
O型小惑星（ボジュ・ニェムツォヴァー）：非常に珍しい
* V型小惑星

その他の分類

S3OS2分類

S3OS2（Small Solar System Objects Spectroscopic Survey）分類は、1996年から2001年にかけて820個の小惑星を観測したもので、ラザロ分類とも呼ばれています。この分類では、トーレンとSMASSの分類手法を適用しましたが、多くの未分類の天体が含まれていました。S3OS2分類では、水性変化を示すCaa型という新しいカテゴリーを導入し、トーレンの分類のC型、SMASSの分類のCh型に相当する天体を分類しました。

Bus–DeMeo分類

Bus-DeMeo分類は、2009年に考案された分類スキームで、0.45-2.45μmの波長範囲で371個の小惑星の反射スペクトルに基づいています。この分類では、24のカテゴリーに分類されており、Sv型という新しいカテゴリーが導入されました。この分類は、SMASSの分類スキームに基づいた主成分分析を元にしていますが、SMASS自体はトーレンの分類に基づいています。

色指数

小惑星の特性評価には、測光システムから導出された色指数の測定も含まれます。これは、異なる波長のフィルターを通して天体の明るさを測定することで行われます。ジョンソンのUBVシステムでは、U（紫外線）、B（青色光）、V（可視光）の3つのフィルターが使用されます。色指数は、異なるフィルターを通して観測された天体の等級の違いを表します。小惑星では、U-BまたはB-Vの色指数がよく使用され、その他にV-R、V-I、R-Iの色指数も用いられます。

評価

これらの分類スキームは、今後の研究の進展によって更新されることが期待されます。しかし、現在のスペクトル分類は1990年代までに行われた粗い分光学的サーベイの結果に基づいていることが多く、より詳細な分類体系を確立するためには、より多くのデータが必要とされています。例えば、より細かい分解能でのスペクトル取得や、天体の密度など、スペクトル以外のデータの収集が求められています。2018年時点で、40万個以上が確認されている小惑星のうち、分光観測に基づいて分類されているのは数万個程度です。しかし、様々なサーベイ観測により、分類が進められています。また、いくつかの小惑星の分類は、隕石の分類と関連付けられています（例：C型小惑星は炭素質コンドライト、S型小惑星は岩石質隕石、M型小惑星は鉄隕石、V型小惑星はHED隕石）。

これらの分類体系は、小惑星の組成、起源、進化を理解するための基礎となります。更なる観測データの蓄積と分析により、小惑星の分類はさらに発展していくと考えられます。

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