小林キュウテン

小林 キュウテン

静岡市職員として働く傍ら、日本のモータースポーツ、特にジムカーナ競技においてトップドライバーとして活躍する小林 キュウテン（こばやし きゅうてん）氏は、静岡県静岡市葵区に生まれました。本名は久展（ひさのぶ）氏。工学院大学で学び、一級建築士の国家資格も取得しているという異色の経歴の持ち主です。

自動車との出会いとジムカーナへの道

小林氏が初めて自動車のステアリングを握ったのは、小学5年生の時でした。7歳年上の姉が自動車教習所へ通うために、父親と共に広場で運転練習をしている光景を目にし、自らも挑戦。なんと教習所へ通う姉よりも上手に運転してみせたといいます。この出来事を、本人は後に「英才教育だった」と振り返っています。

本格的な競技の世界に足を踏み入れたのは1988年。ジムカーナの静岡県シリーズへの参戦を開始しました。初期には自身がアルバイトで資金を貯めて購入したトヨタMR2（AW11型）を駆り、1990年と1991年にはシリーズランキング2位を獲得するなど、早くからその才能の片鱗を見せました。

愛機AW11との激闘と伝説

小林氏のキャリアにおいて、AW11型MR2は特別な存在であり続けました。ライバルたちがより新しいSW20型MR2にマシンをスイッチしていく中でも、思い出深いこのマシンを手放すことなく、改良を重ねて乗り続けました。1993年には全日本ジムカーナ選手権への参戦を決意し、ナンバー付き車両だったAW11を、ナンバー取得が義務付けられていないCIIクラス向けの競技車両へと大胆にモディファイ。その後も2001年までの14年間、一貫してこのAW11と共に戦いました。

AW11との物語が最高潮を迎えたのが、2001年のJAFCUPでした。予選走行中に長年連れ添った愛機をまさかの大破。しかし、決勝にはレンタルした日産スカイラインGT-R（BNR32型）で出場するという劇的な展開の中、全日本選手権クラスのレースで自身初の優勝を飾りました。この快挙が広く知られることとなり、小林氏はよりハイレベルなフォーミュラカー（Dクラス）へとステップアップする契機となったのです。

フォーミュラカーでの栄光と新たな挑戦

2002年、小林氏はK-one Racingへと移籍。フォーミュラ・スズキ隼を駆り、当時連勝を続けていたワークスチーム（スズキスポーツ隼）を倒すことを目標に掲げ、「打倒ワークス」を胸に激しい戦いを繰り広げました。2004年にはワークスとの間で3勝5敗という互角に近い戦いを演じます。そして2005年にワークスチームが撤退した後、小林氏はその強さをいかんなく発揮。2005年から2009年にかけて、全日本ジムカーナ選手権Dクラスで前人未踏の5年連続チャンピオンに輝きました。特筆すべきは、カートの経験がないまま本格的なフォーミュラカーでトップに立った、国内では珍しい存在であったことです。

Dクラスで長らく活躍した後、小林氏は戦いの場を移します。2014年からはトヨタ86（ZN6型）で全日本SCクラスに参戦。さらに2016年からはマツダ・ロードスター（ND5RC型）を駆り、全日本PN1クラス（後にJG8クラスへ変更）へとカテゴリーをスイッチしました。マシンが変わってもトップクラスの実力は健在で、2021年、2022年にはJG8クラスで年間シリーズ3位を獲得するなど、現在も日本のジムカーナ界の第一線で活躍を続けています。

人となりとエピソード

「小林キュウテン」という名前は、小学校時代からのニックネームが定着したものです。本名の「久展」から、「永久発展」という言葉を座右の銘としています。また、強烈なエピソードも持ち合わせています。1995年の全日本ジムカーナ選手権（広島県スポーツランドTAMADA開催）では、盲腸を患いながら強行出場。満身創痍でゴールした直後、パルクフェルメで激しい鼻血に見舞われ、救急搬送される事態となりました。この出来事から、中国地区のモータースポーツ関係者の間では「鼻血ブー」という愛称で親しまれるようになったといいます。

普段は地方公務員として市民生活を支える一方で、競技車両を巧みに操り限界に挑む小林氏。今後の目標は「筋力アップ」とのこと。愛車には三菱eKスポーツ、ホンダ・ヴェゼル、スバルBRZがあり、趣味はスキーやスイーツ作りと多角的です。好きな食べ物にはカスタード、パイ、デニッシュといった甘いものから、ハード系のパン、チョコバットまで幅広い嗜好が見られます。好きな色はピンクであり、「愛、そして信頼」という言葉を大切にしています。

多才な経歴と類稀なドライビングテクニック、そして人間味溢れるエピソードを持つ小林キュウテン氏は、これからも日本のジムカーナ界において注目される存在であり続けるでしょう。



主な戦績（抜粋）

1990年 静岡県シリーズ 2位 (MR2 AW11)
1991年 静岡県シリーズ 2位 (MR2 AW11)
1994年 全日本選手権 CIIIクラス 3位, JAFCUP 2位 (MR2 AW11)
2000年 JAFCUP CIIクラス 2位 (MR2 AW11)
2001年 JAFCUP CIIクラス チャンピオン (スカイラインGT-R BNR32)
2003年 全日本選手権 Dクラス 2位 (フォーミュラ隼)
2004年 全日本選手権 Dクラス 2位, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2005年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2006年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン (フォーミュラ隼)
2007年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2008年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2009年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン (フォーミュラ隼)
2011年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2012年 全日本選手権 Dクラス チャンピオン, JAFCUP チャンピオン (フォーミュラ隼)
2013年 JAFCUP Dクラス チャンピオン (フォーミュラ隼)
2021年 全日本選手権 JG8クラス 3位 (ロードスター ND5RC)
2022年 全日本選手権 JG8クラス 3位 (ロードスター ND5RC)

もう一度検索