小林正人 (画家)

小林正人：絵画の根源を問い続けるアーティスト

小林正人（こばやし まさと）は、1957年に東京で生まれた画家、アーティストです。東京藝術大学を卒業後、1985年に鎌倉画廊で初個展を開催しました。国立市にアトリエを構え、画家としての活動を本格的にスタートさせます。その後、佐谷画廊を中心に個展を重ね、その独自の制作スタイルを確立していきます。

制作スタイルと作品の特徴

小林の制作スタイルは、従来の絵画制作の概念を覆すものでした。彼は、絵画を形式主義ではなく存在論的に捉え、「天使」「空」「空戦」といったモチーフを通して、絵画の本質に迫ろうとします。「白いキャンバスの前に立ってから描くのでは遅すぎる！」という考えのもと、支持体であるキャンバスの組み立てと描画を同時に行うという、他に類を見ないスタイルを確立しました。キャンバスを張りながら手で描くことで、絵画制作における身体性を強調し、絵画そのものの物質性、存在感を際立たせました。1992年に制作された「絵画の子」は、この時期の代表作の一つです。

国際的な活動と展示方法の革新

1996年には、第23回サンパウロビエンナーレの日本代表として選出され、国際的な舞台で注目を集めます。同年、キュレーターのヤン・フートに招かれ渡欧し、ベルギーのヘントに拠点を移します。フートの助言により、作品を床に置くという展示方法を始め、絵画と空間の関係性を問い直す試みを展開しました。2000年の宮城県美術館での個展では、会場に藁を敷き詰めた上に絵画作品「Unnamed#7」を展示し、従来の絵画展示のあり方を大きく変えました。2001年には、S.M.A.K.(ゲント現代美術館)で個展を開催し、ヘントを拠点に、各地で現地制作を行いながら、絵画の新たな可能性を追求しました。

帰国後の活動と拠点の変化

2006年に帰国した小林は、2007年に広島県鞆の浦にアトリエを構えます。この地で、ペア作品「この星のモデル」を制作しました。2009年には成羽美術館、2012年にはセゾン現代美術館で個展を開催し、国内での活動をさらに活発化させました。シュウゴアーツでは「LOVEもっとひどい絵を！美しい絵、愛を口にする以上」というテーマで、2010年と2012年に個展を開催し、絵画表現に対する独自の視点を提示しました。小林は、国立、ゲント、鞆の浦と拠点を変えながらも、絵具とキャンバスと木枠を用いて絵画を最初から作り上げるという一貫したスタイルを維持しながら、絵画のあり方、枠組みを拡張し続けています。

教育活動と後進の育成

小林は、教育者としても活躍しました。2009年から2014年まで武蔵野美術大学の客員教授を、2017年から2023年まで東京藝術大学の教授を務め、後進の育成に尽力しました。彼の教育活動は、単に技術を教えるだけでなく、絵画に対する独自の哲学を次世代に伝えるものでした。

主な展覧会

小林正人は、数多くの個展やグループ展に参加しています。主な個展としては、「絶対絵画」（1985年、鎌倉画廊）、「空戦」（1991年、佐谷画廊）、「絵画の子」（1992年、佐谷画廊）、「小林正人展」（2000年、宮城県美術館）、「Son of Painting」（2001年、S.M.A.K./ゲント市立現代美術館）、「この星の絵の具」（2009年、高梁市成羽美術館）、「ART TODAY 2012 弁明の絵画と小林正人」（2012年、セゾン現代美術館）、「画家とモデル」（2019年、シュウゴアーツ）、「自由について」（2023年、シュウゴアーツ）などが挙げられます。グループ展も多数参加しており、国内外の様々な美術館やギャラリーで作品を発表しています。特に、「現代美術への視点　色彩とモノクローム」（1989年、東京国立近代美術館）、「第23回サンパウロビエンナーレ」（1996年、サンパウロ）、「未完の世紀：20世紀がのこすもの」（2002年、東京国立近代美術館）、「百年の編み手たちー流動する日本の近代美術ー」（2019年、東京都現代美術館）などの大規模な展覧会にも参加しています。

作品の特徴と評価

小林正人の作品は、絵画の物質性、身体性、空間性を重視する独自の視点に基づいています。彼は、絵画を単なる視覚的な対象としてではなく、存在そのものとして捉え、その制作プロセスを通して絵画の本質を問い続けています。彼の作品は、国内外の美術館に多数収蔵されており、日本の現代美術を代表する作家の一人として高く評価されています。独自の存在論に基づき、絵具とキャンバスと木枠を用いて絵画をゼロから作り出すスタイルは一貫しており、拠点が変わっても、その探求は留まることなく続いています。

パブリックコレクション

小林の作品は、いわき市立美術館、宇都宮美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館、S.M.A.K. ゲント現代美術館、セゾン現代美術館、高橋コレクション、高松市美術館、第一生命保険株式会社、大和プレス／大和ラヂヱーター製作所、千葉市美術館、東京国立近代美術館、東京ステーションギャラリー、東京都現代美術館、新潟県立万代島美術館、宮城県美術館などの著名な美術館に収蔵されています。これは、彼の作品が美術史において重要な位置を占めていることの証左です。

著作

また、小林は著作活動も行っており、『この星の絵の具［上］一橋大学の木の下で』、『この星の絵の具［中］ダーフハース通り52』をアートダイバーから出版しています。これらの書籍は、小林の絵画に対する思想や制作プロセスを知る上で貴重な資料となっています。

小林正人は、絵画の可能性を追求し続ける、現代美術において不可欠な存在です。彼の作品は、私たちに絵画とは何か、そして芸術とは何かを深く考えさせるきっかけを与えてくれます。

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