小林正紹

小林 正紹

小林正紹（1890-1980）は、日本の近代建築史において、特に明治末期から昭和初期にかけて官庁営繕の分野で重要な役割を果たした建築家です。そのキャリアの大部分を国の公共建築に捧げ、聖徳記念絵画館の原案設計者として後世にその名を刻んでいます。

生涯と経歴

1890年（明治23年）、東京市麹町区に生を受けた小林は、若くして建築の道を志し、1909年（明治42年）に工手学校（現・工学院大学）建築科を卒業しました。学生時代からすでに大蔵省の臨時建築部に勤務しており、卒業後も官職に就き、生涯にわたり内務省や文部省など、国の機関で官庁建築の設計・監督に携わりました。彼は公共建築の専門家として多くの実績を残す一方で、副業として民間の建築も手掛けています。特に、現在も新橋に現存する堀商店の社屋や、著名な文化人である若槻礼次郎氏や円地文子氏の邸宅などを設計しました。1980年（昭和55年）、90年の生涯を閉じました。

主な業績と作品

小林正紹の建築活動は多岐にわたりますが、特に記憶されるべきは公共建築への貢献です。

博覧会関連: 建築家としての初期には、博覧会のためのパビリオンなども手掛けています。1911年の第二回東京勧業展覧会に出品されたセセッション式の端艇倶楽部や、翌年の第三回展覧会の記念噴水、1914年の東京大正博覧会に出展された大賓材木商陳列場などがあります。
国家的重要建築への関与: 彼のキャリアにおける重要な転換点の一つは、国会議事堂の建設計画への関与です。1918年に行われた設計コンペに、実弟である公保敏雄氏の名義で応募した案が一次審査を通過しましたが、省内での問題発生により辞退せざるを得なくなりました。しかし、その後も国会議事堂の実施設計に関与し、特に内部デザインにおいては吉武東里氏と共に中心的な役割を担ったと伝えられています。
聖徳記念絵画館: 同じく1918年、明治天皇の業績を後世に伝える聖徳記念絵画館の設計コンペで、小林の提案が見事1等に選ばれました。この計画案は、後の実施設計の基礎となりましたが、実際の建設（1926年竣工）は明治神宮造営局に属する別の建築家、小林政一氏と高橋貞太郎氏によって行われました。それでも、彼の原案が歴史的な建造物である絵画館の誕生に不可欠であったことは間違いありません。
その他の主要官庁建築: 大蔵省臨時議院建築局の一員として、現在の皇宮警察本部である枢密院庁舎（1922年竣工）の設計に携わりました。また、北海道小樽市に現存し、現在は似鳥美術館として活用されている北海道拓殖銀行小樽支店（1923年竣工）は、矢橋賢吉氏との共同設計によるものです。
* 民間建築: 官庁営繕の傍らで手掛けた民間の仕事としては、国の登録有形文化財にも指定されている東京都港区新橋の堀商店社屋（1932年、弟の公保敏雄氏と共同設計）が代表的です。その他、前述の若槻礼次郎邸や円地文子邸に加え、植村甲子郎邸、小室翠雲邸、山内得立邸など、著名な人物の邸宅も設計しています。戦後には、斜柱式組立住宅（1946年）といったユニークな試みも行っています。

評価

小林正紹は、表舞台に立つ機会は少なかったかもしれませんが、工手学校出身者として官庁営繕という場で、日本の近代化を支える数々の重要な建築物の設計・建設に関わりました。特に聖徳記念絵画館の原案設計者としての功績は大きく、また堀商店社屋のように現存し文化財として評価される作品も残しています。地道ながらも確実な仕事ぶりで、日本の近代建築史における一角を占める建築家と言えるでしょう。

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