小池九一

小池九一（こいけ きゅういち）は、明治11年（1878年）1月24日に生まれ、昭和30年（1955年）12月5日にその生涯を閉じた、明治から昭和期にかけての著名な社会事業家です。特に、私立の感化教育機関である札幌報恩学園を大正7年（1918年）に創立し、少年たちの教護と障害を持つ人々の救済に多大な貢献をしました。

波乱に満ちた幼少期から北海道へ

長野県筑摩郡松本（現在の松本市）で商家の長男として生を受けた小池九一ですが、その人生は早くから試練に満ちていました。小学校に入学した直後、父が米相場に失敗し、家は破産。さらに間もなく両親を相次いで亡くし、わずか10歳で天涯孤独の身となります。この時より紙問屋に年期丁稚奉公に出され、厳しい環境の中で生き抜くことになりました。しかし、この逆境の中、彼は独自の「慈善貯金」を始め、その後の公共慈善のために70回以上も支出したという記録が残っています。

13年間の奉公期間を終えた23歳の時、小池家再興という大きな志を胸に、新たな挑戦の地として北海道函館へと渡ります。これが明治33年（1900年）のことでした。同年、空知支庁長であった山田有斌氏の保証を得て空知支庁に勤務。その後、明治41年（1908年）には北海道庁立感化院の主事に任命され、公的な立場で感化教育に関わることになります。

「報恩」の精神と札幌報恩学園の創立

感化院で10年間務めた後、小池は公職を辞し、大正7年（1918年）に私財を投じて札幌報恩学園を創立しました。この学園の名称には、彼の生涯を貫くことになる「報恩」という精神が込められています。

小池は、自身が経験した数々の苦難を乗り越え、現在の地位を得られたのは、決して自分一人の力ではなく、多くの恩恵の賜物であると深く認識していました。学園開園記念絵葉書には、「小池九一は信州松本に生まれたる無学不徳の一孤児たり、而して其の今日在るを得たるは偏に天恩、君恩、国恩、親恩、師恩、友恩の賜物にして感謝措く所知らず」と記しています。

また、機関紙「報恩」などにおいても、一度失われた小池家を再興し、故郷の墓地修復や札幌での新たな墓所建立が叶ったのは、まさに天恩、地恩をはじめとする多くの恩恵の賜物であると述懐。この恩に報いることこそが自身の使命であり、北海道での感化教育に尽力することを決意した動機であると繰り返し語っています。札幌報恩学園の設立は、まさにこの「諸々の恩に報いる」という強い決意を形にしたものだったのです。彼はこの信念に基づき、恵まれない少年たちや障害を持つ人々のために生涯を捧げました。

小池九一の人生と事業は、困難の中でも希望を失わず、受けた恩を社会に還元しようとする「報恩」の精神がいかに力強い原動力となるかを示しています。彼の功績は、その後の北海道における社会福祉の発展に大きな足跡を残しました。

彼の人生については、平中忠信氏著『小池九一』など、複数の文献で詳しく紹介されています。また、奉公中に実践した慈善貯金の実話が金森通倫著『貯金のすすめ』で取り上げられたり、有名になった郵便犬ポチを引き取り報恩学園で終生暮らさせたエピソードなど、人間味あふれる一面も伝えられています。現在も社会福祉法人札幌報恩会が彼の遺志を継ぎ、様々な社会福祉事業を展開しています。

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