小瀬甫庵

小瀬 甫庵について

小瀬甫庵（おぜ ほあん）は、1564年から1640年にかけて活躍した儒学者、医師、軍学者である。甫庵という名は号であり、彼の本名は道喜であった。彼は安土桃山時代から江戸時代初期に多大な影響を及ぼした人物であり、特に歴史書『信長記』や『太閤記』の著者として知られている。

生涯と経歴

甫庵は美濃土岐氏の庶流に生まれ、尾張国春日井郡にルーツを持つ。彼は最初に医学や経史を学び、特に易学にも精通していた。初めは織田家の家臣である池田恒興に仕官し、医師としてのキャリアを築いた。池田氏の死後、豊臣秀次に仕え、文禄4年には医書『補注蒙求』を刊行した。

関ヶ原の戦いの後、甫庵は堀尾吉晴に仕官し、松江城の築城にも関与した。その後の彼の人生は波乱万丈で、藩主の世子・光高の兵学の師を務める一方、最終的には浪人生活を送ることとなる。甫庵が亡くなった年については異説もあるが、1640年説が有力である。

著作とその評価

甫庵は歴史書に留まらず、医書や古典籍を活字で刊行し、特に『補註蒙求』は現存する日本最古の活字本とされている。また、彼の著書には儒教的価値観に基づいた人物評が強く、特に『信長記』と『太閤記』は一般的に広く読まれた書物である。

しかし、彼の著作には実際の出来事を改竄したり、虚構を加えた記述が見られる。例えば、『信長記』における長篠の戦いの三段撃ちの逸話は後世になって知られたが、甫庵は意図的な創作を加えていると指摘されている。さらに『太閤記』では、実際の出来事の日時を変更して整合性をもたらすなど、文書の改竄も行っている。

歴史的影響

甫庵の著書は、特に江戸時代に入ってから広く流布し、大衆に受け入れられた。その中でも、彼は太田牛一の『信長公記』に対する批評を行い、牛一の著作が写本でしか伝わらない中で、甫庵の『信長記』は刊本として一般人に人気を博した。ただし、彼の価値観や意図が反映された著作に対し、実証的な歴史研究においては信憑性が低いとされている。

小瀬中務との混同

小瀬甫庵と同じ名字の小瀬中務は、別人として扱われている。中務は宇喜多氏に仕えた人物であり、甫庵とは異なる経歴を持っている。これが混同されるケースが多く、特に備前岡山藩士の資料には吟味不足による誤解が見られた。

参考文献

甫庵の研究は多くの文献で取り上げられ、特に柳沢昌紀の著作が詳しい。彼の生涯や著作に関する多様な観点が示され、甫庵の歴史的な位置付けやその評価を考える上で重要な参考資料となっている。

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