小磐梯 (小説)

井上靖『小磐梯』解説

『小磐梯』は、井上靖が1961年に発表した短編小説です。明治21年（1888年）の磐梯山噴火を題材とし、自然災害の圧倒的な力の前で無力な人間を描いています。

概要

物語は、磐梯山噴火の調査に出張した地方官吏の回想という形式で語られます。主人公である若い収税吏は、地押調査のために裏磐梯の檜原村を訪れます。しかし、その地で未曾有の噴火に遭遇し、人々の生活が一変する様を目の当たりにします。

作者は、噴火という自然の脅威を背景に、人間の存在の儚さや、運命の残酷さを浮き彫りにしています。また、災害に直面した人々の様々な反応を通して、人間の本質に迫ろうとしています。

あらすじ

明治21年7月、主人公である郡役所の収税吏は、喜多方から裏磐梯の檜原村へ地押調査に赴きます。近頃の磐梯山の異常な様子に不安を感じながらも、調査の準備を進める一行。そんな中、六部姿の女から不吉な予言を受けます。

調査を進めるうちに、主人公は都会風の若い男女や蒲鉾商人など、様々な人々と出会います。しかし、その晩、ついに磐梯山が噴火。村は一瞬にして火砕流に飲み込まれ、人々は逃げ惑います。主人公は九死に一生を得ますが、目の当たりにした光景は、彼の心に深い傷跡を残します。

登場人物

私: 主人公。喜多方の郡役所の収税吏。地押調査のために檜原村へ。
留吉: 主人公に雇われた日雇い人夫。測量仕事の経験を持つ。
金次: 主人公に雇われた筆生。無口で陰気な若者。
六部姿の女: 一行に不吉な予言を告げる狂女。
春太郎: 檜原の戸長役場の用係。
粂: 春太郎と共に調査に同行する。
信州: 調査隊のムードメーカー。
若い男女: 都会風の男女。噴火に巻き込まれる。
蒲鉾商人: 大阪で成功し、故郷へ錦を飾ろうとする男。
子供たち: 噴火する磐梯山に向かって呪文を唱える。

テーマ

『小磐梯』は、自然の脅威と人間の無力さをテーマとしています。噴火という圧倒的な自然の力の前に、人間の営みがいかに脆く、無意味なものであるかが描かれています。また、災害に直面した人々の様々な反応を通して、人間の本質や、生きることの意味を問いかけています。

作品の魅力

『小磐梯』の魅力は、作者の繊細な描写力にあります。噴火の様子や、人々の感情、風景などが、美しくも悲しい筆致で描かれています。また、短い物語の中に、人間の存在の儚さや、運命の残酷さといった普遍的なテーマが凝縮されている点も魅力です。

読者は、この作品を通して、自然の脅威に対する畏怖の念を抱くと同時に、人間の生きる力や、希望を見出すことができるでしょう。

書誌情報

初出: 『新潮』1961年11月号
収録作品集: 『洪水』（新潮社、1962年）

関連情報

1888年の磐梯山噴火
磐梯山
* 磐梯高原

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