戸長役場

戸長役場：明治時代の地方行政を支えた機関

明治時代初期、日本の地方行政の中核を担っていたのが戸長役場です。現在の町村役場にあたるこの機関は、戸籍管理をはじめ、多岐にわたる行政業務を担っていました。その歴史と役割、そして町村制施行による変遷について詳しく見ていきましょう。

戸長役場の設立と初期の役割

明治政府は、当初大区小区制を導入しましたが、1878年（明治11年）の郡区町村編制法により、旧来の郡・町村制に戻しました。この際、従来区に設置されていた戸長を町村に配置し、戸長役場が設置されました。しかし、全ての町村に戸長役場が設置されたわけではなく、小規模な町村では複数の町村を1つの戸長役場が管轄するケースもありました。

戸長は公選で選ばれた後、知事によって任命され、筆生（しょき）、小走（雑用係）とともに役場を運営しました。給与は県税で賄われ、府知事、県令、郡長の下に位置づけられ、官吏懲戒令の対象にもなりました。

戸長役場の業務は多岐に渡り、戸籍事務の他、中央政府や府県からの命令伝達、徴税、徴兵、教育、福祉など、地域社会の維持に不可欠な役割を担っていました。戸長を補佐する惣代や重立といった補助機関も置かれ、地域住民との連携も重視されていました。公選とはいえ、実際には旧来の名主や庄屋といった有力者が戸長に選ばれる傾向が強かったようです。また、多くの町村では経済的な理由から、戸長の私宅の一部を戸長役場として使用していました。当時、町村単位で公選の町村会が設置されることもありました。

自由民権運動と戸長役場の改革

しかし、旧来の有力者層出身の戸長の中には、政府の政策に反対し、自由民権運動に参加する者もいました。このため、政府は1884年（明治17年）に戸長制度を改革します。戸長の選出方法を公選から官選に変更し、平均5町村、500戸を1つの戸長役場が管轄する体制に移行しました。これにより、複数の町村を管轄する連合戸長役場が登場します。

また、行政の私物化を防ぐため、戸長の私宅を役場とすることは禁止され、新築または公共施設の借用が義務づけられました。これは、国策に忠実で行政能力の高い官吏を外部から戸長に任命する可能性も考慮した措置でした。自由民権運動が盛んな地域では特にこの方針が徹底されたようです。連合戸長役場に対応して、複数の町村を管轄する連合町村会も設置されました。ただし、従来の惣代や重立、町村会も活動を継続しており、官選戸長が地域行政を完全に掌握していたわけではなかったようです。

連合戸長役場への移行過程で、行政文書が全て引き継がれなかったケースも多く、貴重な歴史資料が散逸した可能性が指摘されています。このことは、今日の地方史研究において大きな課題となっています。

町村制施行と戸長役場の終焉

1888～89年に行われた明治の大合併では、連合戸長役場が合併の単位として用いられました。そして、1889年（明治22年）の町村制施行により、戸長役場は新たな町村役場にその役割を譲り、歴史の幕を閉じました。

まとめ

戸長役場は、明治時代の地方行政において重要な役割を果たした機関でした。その歴史を振り返ることで、近代日本の地方行政の変遷や、住民と政府との関わりについて深く理解することができるでしょう。また、残された史料の重要性を再認識し、歴史研究への貢献が期待されます。

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