小穴隆一

小穴隆一：画家、随筆家、そして芥川龍之介の親友

小穴隆一（1894年-1966年）は、20世紀前半を代表する日本の洋画家、随筆家、そして俳人です。長野県に生まれ、北海道で育ち、旧制開成中学校を中退後、太平洋画会研究所で中村不折に師事しました。二科展や春陽会展に出品するなど、画家としての活動を積極的に展開しました。

しかし、小穴隆一の名を広く知らしめたのは、画家としての才能だけでなく、文壇、特に芥川龍之介との深い交友関係です。1919年、瀧井孝作の紹介で芥川龍之介と出会い、以後親友となります。誕生日が芥川の母の命日にあたっていたことから、芥川は「僕の母の生まれかわりではないかと思ふよ」と語るほど親密な関係を築きました。

芥川龍之介の著作の装丁を多数手がけるなど、創作活動にも深く関与。代表的な作品として、芥川をモデルにした油彩画『白衣』が挙げられます。1922年の二科展に出品されたこの作品は、大きな話題を呼びました。芥川は、次男誕生の際に、小穴隆一の名に因んで「多加志」と命名するなど、その親交の深さがうかがえます。

芥川龍之介との交流は、小穴隆一の生涯に大きな影響を与えました。1926年には、芥川が鵠沼に滞在した際に隣接する別荘に住まい、芥川作品「蜃気楼或は「続海のほとり」」に登場する「O君」のモデルとなりました。しかし翌1927年、芥川は自殺。遺書には「小穴隆一を父と思へ。従つて小穴の教訓に従ふべし」と記されており、その関係の深さを改めて示しています。

芥川龍之介の死後も、その遺族と親交を続けましたが、芥川の甥である葛巻義敏とは険悪な関係にあったと伝えられています。1933年には、文士賭博事件に関与し、検挙・罰金刑を受けるなど、波乱に満ちた人生を送りました。

晩年、1956年に発表した『二つの絵：芥川竜之介の回想』では、芥川が私生児だったという説を発表し、大きな反響を呼びました。これは、芥川龍之介研究に新たな視点を与えるとともに、小穴隆一自身の複雑な心情を反映したものと言えるでしょう。

小穴隆一は、画家としてだけでなく、随筆家、俳人としても活躍しました。代表的な著作に『鯨のお詣り』『白いたんぽぽ』『芥川竜之介遺墨』などがあります。また、宮沢賢治や坪田譲治の作品に挿絵を提供するなど、幅広い分野で才能を発揮しました。その挿絵作品は、独特の感性と繊細なタッチで知られています。

画家としては、坪田譲治の肖像画『T君』が有名です。1941年の春陽会展に出品され、現在も岡山市立中央図書館に所蔵されています。この作品は、小穴隆一の画技の高さと、人物描写の深さを示す重要な作品です。

小穴隆一の生涯は、画家、随筆家、俳人としての活動、そして芥川龍之介との深い友情、文壇との関わり、そして数々の困難を乗り越えた波乱に満ちた人生でした。彼の作品群は、20世紀前半の日本文化を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。彼の創作活動は、時代背景と密接に結びつき、現代にも通じる普遍的なテーマを提示し続けています。多様な才能と複雑な人生を送った小穴隆一の生涯は、これからも多くの人々の興味を引きつけ続けることでしょう。

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