小笠原胤次

小笠原胤次は、1657年（明暦3年）に誕生しました。紀州藩士である小笠原胤治の婿養子となり、小笠原家の家督を継ぎました。彼の出自は、幕府旗本の松平定之（久松松平家・松平定実の嫡男）の五男であり、母は松平氏家臣奥平貞由の娘という、由緒ある家系に育ちました。通称は長六、長左衛門、主膳と変遷しています。

胤次は、幼少期から優れた能力を発揮し、紀州藩内で頭角を現していったと考えられます。そして、大きな転機が訪れます。1716年（享保元年）、紀州藩主であった徳川吉宗が、江戸幕府第8代将軍に就任したのです。吉宗は、家臣であった胤次の能力を見抜き、彼を江戸に呼び寄せました。

吉宗の将軍就任に伴い、胤次は幕臣として仕えることになります。同年5月25日、吉宗の側近である「御側」に任ぜられました。これは、将軍に最も近い立場であり、絶大な信頼を得ていることの証左です。その功績が認められ、伊勢国安芸郡・河曲郡の内に2500石という広大な知行地を与えられ、従五位下、肥前守に叙任されました。

さらに、1717年（享保2年）には、常陸国筑波郡・河内郡に2000石が加増され、その勢力をますます拡大しました。同年4月には、幕府に貢献した証として、備前恒弘の日本刀を献上し、幕府への忠誠を改めて示しました。これらの出来事は、胤次の優れた政治手腕と幕府への貢献がいかに大きかったかを物語っています。

しかし、胤次の華々しい幕臣としてのキャリアは長くは続きませんでした。1718年（享保3年）、享年62歳でこの世を去ります。その死は、幕府にとっても大きな損失だったことは想像に難くありません。彼の死後、家督は次男の茂武が継承しました。胤次の功績は、後世の人々によって語り継がれ、歴史に刻まれたのです。法名は道浄、品川の東海寺に葬られました。

小笠原胤次の生涯は、紀州藩士から幕府の要職にまで上り詰めた、波乱に満ちたものでした。彼は将軍徳川吉宗の信頼を得て、幕府の政治に大きく貢献しました。彼の功績は、『寛政重修諸家譜巻第1241』にも記録されており、後世に伝えられています。また、1995年のNHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』では、森田順平さんが胤次を演じ、その生涯の一部が映像化されています。

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