小網橋

かつて岐阜県各務原市川島小網町と愛知県江南市宮田神明町の間を流れる木曽川の南派川に存在した市道の橋が、小網橋（こあみばし）です。この橋は上路式ゲルバー橋という形式を採用しており、別名「思いやり橋」とも呼ばれましたが、かつては「けんか橋」という不名誉な名でも知られていました。

小網橋が現在の姿で完成する以前、この地には「小網の渡し」、あるいは「神明渡し」と呼ばれる渡船が運航されていました。しかし、木曽川の増水時にはしばしば運休となるため、安定した交通手段が求められていました。大正10年（1921年）頃になると、仮設の木橋が応急的に架設されたようです。

その後、昭和5年（1930年）7月1日には本格的な木造の橋として完成しましたが、この橋は長さがわずか9.5メートル、幅員も2メートルと非常に短く狭かったため、わずかな洪水でも流失することが度々あり、その都度修復作業が繰り返されました。続く昭和27年（1952年）3月1日には、全長約200メートル、幅2メートルの新たな木製橋が架け替えられています。

昭和35年（1960年）頃、建設省（現在の国土交通省）が進める木曽川の河川改修工事に伴い、この木製橋を撤去する必要が生じ、新たな橋の架設が計画されました。当初の設計では幅員2メートルという狭いものでしたが、近い将来の自動車社会の到来を懸念した当時の岐阜県羽島郡川島町（現在の各務原市の一部）が、町独自の財源を投じることを決定。これにより、橋の幅員を3メートルに拡幅するとともに、橋の中央部分には長さ10メートル、幅5.5メートルの車両待避所を設ける設計変更が実現しました。こうして完成した現在の小網橋は、昭和38年（1963年）5月に供用を開始しました。

しかし、中央に待避所があるとはいえ、実質的な通行幅は約2メートルと自動車1台がようやく通行できる程度の狭さでした。このため、対向車との通行を巡ってどちらが先に渡るかという優先順位を巡るトラブルが絶えず、口論や取っ組み合い、さらには警察沙汰にまで発展するケースも少なくありませんでした。こうした状況から、この橋はいつしか地元の人々の間で「けんか橋」と呼ばれるようになりました。

この状況を憂慮した地元川島町の小学生たちが立ち上がり、「ゆずりあい」を呼びかける手作りの看板を橋のたもとに設置する活動を展開しました。この素朴な活動の効果は驚くほど大きく、橋でのトラブルが激減。次第に「思いやり橋」という親しみやすい通称で呼ばれるようになりました。この心温まるエピソードは地域社会に広がり、平成15年（2003年）には公共広告機構（現在のACジャパン）がこれを題材にした「思いやり」をテーマとするテレビコマーシャルを制作し、中部地方限定で放映されました。

小網橋は、下流側に新たな橋である神明小網橋が開通した平成18年（2006年）11月5日をもって、その40年以上にわたる歴史に幕を下ろしました。神明小網橋の通称を公募した際も、この旧小網橋のエピソードにちなみ、「思いやり橋」という名前が選ばれています。旧橋は平成19年（2007年）3月26日までに撤去されました。

多くの人々の記憶に残る橋であったため、地元からは小網橋をそのままの姿で保存してほしいという声も上がりました。しかし、木曽川の治水計画上、橋脚が堤防よりも低い位置にあることや、一部が川幅を狭めてしまう構造的な問題から、元の形での保存は断念されました。その代わりとして、新たな神明小網橋の両岸、すなわち各務原市側と江南市側に、旧小網橋の歩みや「思いやり橋」という通称が生まれた背景を記した記念碑が建立され、その一部構造物と共に公園として整備されています。これにより、小網橋の存在とそのユニークな歴史は、現在も地域に語り継がれています。

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