小胞子嚢

小胞子嚢（しょうほうしのう）

小胞子嚢という言葉は、主に植物と菌類の世界で使われますが、それぞれ異なる構造を指しています。大きく分けて二つの意味があります。

1. シダ植物などに見られる、小さな胞子（小胞子）を作る胞子嚢
2. 接合菌類などに見られる、特殊な構造を持つ小さな胞子嚢

シダ植物における小胞子嚢

多くのシダ植物は、すべて同じ大きさの胞子（同形胞子）を作ります。この胞子が発芽すると、造卵器（卵子を作る器官）と造精器（精子を作る器官）の両方を持つ「前葉体」と呼ばれる薄い植物体になります。

しかし、一部のシダ、例えば水生シダの仲間では、大小二種類の異なる大きさの胞子（異形胞子）を形成します。この場合、大きい胞子を「大胞子」、小さい胞子を「小胞子」と呼びます。大胞子から発芽するのは造卵器のみを持つ雌性の前葉体であり、小胞子から発芽するのは造精器のみを持つ雄性の前葉体となります。この、雄性の前葉体のもととなる小胞子を内部に形成する胞子嚢のことを「小胞子嚢」と呼びます。

異形胞子性は、水生シダの他にも、イワヒバの仲間であるクラマゴケ科や、ミズニラの仲間にも見られます。

興味深いことに、種子植物においても、この異形胞子性と同様の分化が見られます。種子植物の「花粉」は、シダ植物の小胞子に相当し、花粉が発芽してできる花粉管は、雄性の前葉体に相当します（ソテツやイチョウのような原始的な種子植物では、花粉管の中で精子が形成されますが、被子植物など多くは精子を形成しません）。したがって、種子植物の雄しべの葯（やく）の中に含まれる「花粉嚢（かのう）」は、シダ植物の小胞子嚢と進化的に同じ起源を持つ構造（相同）と考えられています。

現代のシダ植物で異形胞子性を持つ種は少ないですが、種子植物が小胞子と大胞子の区別を持つことから、古生代の多くのシダ植物には異形胞子性が見られたのではないかと推測されています。

接合菌類における小胞子嚢

接合菌類の多く、特にケカビの仲間では、無性生殖の際に、菌糸が立ち上がってその先端に袋状の構造（胞子嚢）を作り、その中に多くの胞子を形成します。通常、胞子嚢の壁が破れることで中の胞子が放出されて散布されます。

しかし、エダケカビのような菌類では、菌糸の先端にできる大きな胞子嚢の他に、その下の側枝から出る細い枝の先端に、ごく小さな胞子嚢を作ることがあります。このような胞子嚢は、含まれる胞子の数がわずか数個と非常に少なく、その壁は丈夫で簡単には壊れません。代わりに、胞子嚢がついた細い枝が折れたり、胞子嚢の付け根で離れたりすることで、胞子嚢自体が塊として散布体となる特徴を持っています。このような特殊な小さな胞子嚢を「小胞子嚢」と呼びます。

ケカビなどでも二次的に小さな胞子嚢を作ることもありますが、これらは通常、胞子嚢の基本的な構造は変わらず、胞子は壁が壊れて放出され、また大きさも大きなものから小さなものまで連続的に見られるのが一般的です。これに対し、接合菌類で「小胞子嚢」と呼ばれるものは、明確に大きさが異なり、それを支える枝も細かく分枝したり、ゼンマイのように巻き込んだり、あるいはコウガイケカビのように柄の先端の膨らみ（頂嚢）の表面にびっしりと生じたりと、独特な形態を示すことが多いです。

コウガイケカビの場合、頂嚢の上に生じる散布体は一つ一つが単細胞のように見え、分生子（無性胞子の一種）のように思えます。しかし、電子顕微鏡でその壁の構造を詳しく調べると、外側に胞子嚢の壁と区別できる層が見つかり、実際には胞子が一つだけ入った小胞子嚢であることがわかっています。ただし、クスダマカビのような一部の菌類では、このような壁の区別が明確でない場合もあります。

さらに、ラジオミセスやクスダマカビのように、大きな胞子嚢を全く作らず、小胞子嚢のみを形成する接合菌類も存在します。

このように、小胞子嚢という言葉は、シダ植物においては異形胞子性を示す種の小さな胞子を作る胞子嚢を指し、接合菌類においては散布体として機能する特殊な小型胞子嚢を指すため、文脈によってその意味を理解することが重要です。

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