小麦農林10号

小麦農林10号とは

小麦農林10号（こむぎのうりん10ごう）は、1935年に日本で開発された小麦の品種です。この品種は後にアメリカ合衆国の小麦品種ゲインズ（Gaines）の親となり、その高い収量性により注目を集めました。さらには、メキシコにおいてもこの品種が交配に用いられ、農業の生産性向上に寄与したことで、後に「緑の革命」と呼ばれる大きな変革を牽引することになりました。

歴史的背景

小麦農林10号は、岩手県農事試験場でフルツ達磨とターキーレッドという品種の交配によって誕生しました。交配は1925年に行われ、10年後に正式に登録されました。育成を担当したのは、稲塚権次郎氏です。この品種は、日本の在来品種「白達摩」からの遺伝子を受け継いでおり、草丈が低くなる特性を持っています。これにより、風雨や台風による倒伏のリスクが軽減され、安定した収穫が可能になる利点があります。

また、収穫の際に機械を使用しやすくなるため、農業の効率化にも寄与しています。ただし、病害に対する抵抗力が低いため、国内では東北地方に限った普及となってしまいました。

第二次世界大戦後の影響

小麦農林10号が注目されるきっかけとなったのは、第二次世界大戦後のGHQによる遺伝資源の収集です。アメリカ農業省のS.C.サーモンが日本で有用な品種の種子をアメリカに持ち帰り、その育種に利用されたことが大きな転機となりました。1961年には、この小麦農林10号を親とした短稈多収品種であるゲインズが開発され、非常に高い生産性を持つ品種として評価されました。

メキシコでの育種と世界的展開

同時期には、メキシコでも国際トウモロコシ・コムギ改良センター（CIMMYT）による小麦農林10号を親とした育種が進められました。ノーマン・ボーローグをはじめとする研究者たちが、短い草丈（90〜120センチメートル）のBevor14系の品種群を育成しました。これらの短稈・多収性の小麦品種は、インド、パキスタン、ネパールを含む世界各国で栽培されるようになり、コムギの生産性を飛躍的に向上させました。

このような一連の動きは、後の緑の革命と呼ばれる現象に繋がります。ボーローグらは、この偉業により1970年にノーベル平和賞を受賞するなど、農業における新しい時代の扉を開いた人物として評価されています。

終わりに

小麦農林10号の開発とその発展は、日本国内に留まらず、世界の食料生産に多大な影響を与えました。この品種は、日本の農業の歴史においても重要な位置を占めており、農業技術の進化に寄与してきた証として、今後も研究と活用が続けられるでしょう。

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