尾上九朗右衛門 (2代目)

二代目尾上九朗右衛門：歌舞伎役者から国際的な俳優へ

二代目尾上九朗右衛門（1922年-2004年）は、昭和時代を代表する歌舞伎役者であり、俳優として映画やテレビドラマにも数多くの作品に出演しました。六代目尾上菊五郎の長男として、梨園の家に生まれた彼の生涯は、華麗さとともに数々の困難や挑戦に満ちていました。

幼少期、彼は父・菊五郎の妾である千代との間に生まれましたが、生後間もなく菊五郎の正妻である家寿子のもとに引き取られ、養子であった七代目尾上梅幸と共に育てられました。この独特の環境が、彼の人格形成に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

1925年、わずか3歳で市村座『助六』にて初舞台を踏み、初代尾上右近の名で俳優としてのキャリアをスタートさせます。その後、1940年には歌舞伎座『対面』の五郎役で二代目尾上九朗右衛門を襲名。名門・音羽屋の看板を背負い、本格的に歌舞伎役者としての道を歩み始めました。

1949年、父・菊五郎の死後、彼は尾上菊五郎劇団の理事に就任。しかし、間もなくアメリカへと留学します。この決断は、彼の人生に新たな転機をもたらすことになります。

アメリカ滞在中は、ハーバード大学やコロンビア大学などで演劇を教え、歌舞伎の普及活動に尽力しました。その活動は、単なる舞台芸術の指導にとどまらず、異文化理解に基づいた国際的な交流へと繋がっていったと言えるでしょう。彼は、歌舞伎の伝統を継承するだけでなく、新たな表現方法を探求し、海外への発信にも積極的に取り組んでいたのです。

アメリカでの活動と並行して、彼は帰国後も歌舞伎の舞台に立ち続けました。さらに、映画やテレビドラマにも出演し、幅広い演技力を披露しています。例えば、『かくて自由の鐘は鳴る』では福澤諭吉を演じ、時代劇以外の作品にも挑戦するなど、その活動は多岐にわたりました。NHK大河ドラマ『赤穂浪士』や『源義経』、『戦国太平記　真田幸村』などにも出演し、時代劇俳優としての高い評価を得ていました。映画では、黒澤明監督作品『宮本武蔵』シリーズで沢庵役を演じるなど、名だたる監督の作品にも参加しています。

1969年、脳出血で倒れるという大きな危機に見舞われましたが、持ち前の強靭な精神力と周囲の支えにより克服し、その後も精力的に活動を続けました。しかしながら、1989年の歌舞伎座公演が彼の最後の舞台となりました。その後、ハワイで肺炎のため82歳で死去しました。

二代目尾上九朗右衛門は、歌舞伎役者としての卓越した技量、映画やテレビドラマにおける多彩な演技、そしてアメリカでの歌舞伎普及活動を通して、日本の伝統芸能を世界に広めることに大きく貢献しました。彼の功績は、単なる俳優としての活躍を超え、文化交流における重要な役割を果たしたと言えるでしょう。彼の生き様は、後世の俳優や文化人にとって、大きな示唆を与え続けるものと言えるでしょう。

主な出演作品

映画: 『宮本武蔵』(1954年)、『続宮本武蔵 一乗寺の決斗』(1955年)
テレビドラマ: NHK大河ドラマ『赤穂浪士』(1964年)、『源義経』(1966年)、『戦国太平記　真田幸村』(1966年)、『かくて自由の鐘は鳴る』

参考文献

花田昌子『聞き書き 尾上九朗右衛門―アメリカに移住した梨園の御曹司』（朝日新聞社、1996年）
寺島千代『私のこんちきしょう人生―夫 六代目菊五郎とともに』（講談社、1987年）

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