尾上辰之助 (初代)

初代尾上辰之助について

初代尾上辰之助（1946年10月26日生まれ）は、日本の歌舞伎界における名俳優であり、昭和時代にその名を轟かせました。彼の本名は藤間亨で、父は著名な歌舞伎役者である二代目尾上松緑です。屋号の音羽屋や定紋の四ツ輪に抱き柏、替紋の藤輪に花菱など、彼の家系は伝統的な名家であり、歌舞伎界に大きな影響を与えてきました。

辰之助は1952年に初舞台を踏んでから、徐々にその存在感を増していきます。1965年には役名を初代尾上左近から初代尾上辰之助に改名し、父から受け継いだ豪快で巧みな芸風で観客を魅了しました。特に、同時代の俳優である四代目尾上菊之助や六代目市川新之助との共演は多く、1960年代後半には「三之助」という愛称で広く知られるようになりました。

また、1972年には市川海老蔵や中村吉右衛門と共に『勧進帳』に出演し、演じる役が交代するスタイルで注目を集めました。このように辰之助は、数多くの作品に出演し、1976年には芸術選奨新人賞を受賞するなど、キャリアは順調に推移していました。

しかし、1986年に健康を害し、アルコール性肝炎により入院生活を送ることになりました。退院後も舞台に復帰しましたが、次第に彼の体調は悪化し、1987年には最期の舞台となる『毛抜』に出演した後、わずか40歳でこの世を去ります。彼の死は歌舞伎界に大きな衝撃を与えました。

人物像とエピソード

辰之助はその人気に反して、非常に繊細な性格の持ち主でもありました。彼は酒豪として知られており、若い頃にはウイスキーを1本空けるほど飲んでいたという逸話も残されていますが、酒を飲むことで自らの不安やプレッシャーを和らげようとしていたのかもしれません。その生涯において、彼は父の存在や期待に耐えることが困難であったことが、晩年の彼に影を落としたのでしょう。

彼の人柄に関するエピソードも数多くあります。例えば、他の主演俳優たちからは「気の優しい男」という評価を受けていました。特に1972年に経験した『勧進帳』の際には、年上の吉右衛門に対して配慮する姿勢が見られたといいます。美輪明宏も辰之助を「非常に繊細でデリケートな人」と評しており、彼の人間性について多くの人々が感銘を受けていました。

主な出演作

辰之助は歌舞伎を中心に、映画やテレビにも幅広く出演しました。彼の当たり役としては、歌舞伎『蘭平物狂』や『暗闇の丑松』、『勧進帳』の弁慶や富樫が挙げられます。また、演劇やテレビドラマにおいても多くの名演技を残しています。特に、NHK大河ドラマ『竜馬がゆく』や『徳川家康』では重要な役割を果たしました。

最後に

初代尾上辰之助は短い生涯でありながらも、歌舞伎界において重要な足跡を刻み、多くの人々に愛されました。彼の死後14年が過ぎた後、息子である二代目尾上辰之助が四代目尾上松緑を襲名する際には、彼の存在が再び脚光を浴びることとなりました。辰之助の名は永遠に歌舞伎の歴史に残り、彼の素晴らしい演技と人間性は今でも多くの人々の心に深く刻まれています。

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