尾翼

尾翼（びよく、Empennage）

尾翼とは、航空機において主に安定性と操縦性能を確保するために設置される翼のことです。一般的には、主翼の後方に設けられる水平尾翼と垂直尾翼が存在し、これらが機体の重心周辺でモーメントを調整し、安定した飛行を可能にします。尾翼は、一般に航空機だけでなく、潜水艦など他の飛行物体にも取り付けられることが多いです。

水平尾翼

水平尾翼は主に水平に配置されており、機体のピッチング運動の安定性を保つ役割を果たしています。具体的には、主翼との揚力のバランスを取ることで、機体が上下に傾く動きを制御します。通常、設計面では主翼の揚力の中心が重心の若干後方に配置され、水平尾翼にはマイナスの揚力が発生するように設定されています。これにより、機体は自然に安定した飛行が可能になるのです。

初期の航空機では、逆に主翼の揚力の中心が前方に配置されることもあり、水平尾翼がプラスの揚力を生むこともありましたが、これでは安定した操縦が難しいため、あまり採用されませんでした。1970年代以降は、CCV技術が進展し、特に戦闘機では自然安定性を犠牲にして運動性能を重視する設計が見られるようになり、水平尾翼はその役割を変化させています。

先尾翼と全遊動式尾翼

水平尾翼は必ずしも主翼の後方にあるとは限らず、前方に設置されることもあります。これを先尾翼（カナード）と呼び、主翼の揚力の中心が重心より後方に位置する場合、その先尾翼はプラスの揚力を発生します。また、全遊動式尾翼（オールフライング・テール）は、水平尾翼が可動式で、特に戦闘機などで目にすることができます。このような設計は、ロール制御にも貢献します。

垂直尾翼

垂直尾翼は主に垂直に配置され、機体のヨーイング運動を制御します。この尾翼は通常、主翼の後方に設けられ、重心の後ろに触れそうな位置に配置することが安定性を確保するための要件です。最近の設計では、特に小型軍用機など、偶数の垂直尾翼が傾けられ、ステルス性能を向上させる工夫がなされることもあります。

特殊な尾翼形状

尾翼の構成にはさまざまなバリエーションがあります。T字尾翼は、垂直尾翼の先端付近に水平尾翼が配置され、端板効果を生むことで、垂直尾翼の効果を高めます。一方、X字尾翼は、斜めに配置された尾翼が方向舵と昇降舵の役割を一体化し、省スペースと軽量化の利点があります。これらの特殊形状は、機体の性能向上を目的としています。

無尾翼機と全翼機

尾翼が設計に不要な機体も存在します。無尾翼機は、空気抵抗やレーダー断面積の削減を狙って、水平尾翼を取り除いたものですが、垂直尾翼が必要になることもあります。また、全翼機は機体そのものが主翼と同じ形状で構成されています。

これらの尾翼は、航空機の操縦性や性能に深く関わっており、設計者は様々な要因を考慮しながらその形状を決定しているのです。

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