局所恒星間雲

局所恒星間雲

局所恒星間雲（LIC）とは、広大な宇宙空間に存在するガスや塵の集合体、すなわち星間雲の一つで、現在私たちの太陽系がその中を航行している天体です。この雲は、直径がおよそ30光年にも及び、比較的近傍に位置するため、「近隣宇宙星間雲」や、あるいはその希薄さから「局所けば（Local Fluff）」といった愛称でも呼ばれています。

太陽系がこの局所恒星間雲の中に突入したのは、およそ4万4千年ほど前から最大で15万年前のことと考えられています。そして、現在の推測では、太陽系はこの雲の中にあと1万年から2万年ほど滞在し続けると見られています。これは、地球の歴史スケールで見れば非常に長い期間ですが、宇宙のスケールでは比較的短い通過期間と言えるでしょう。

この局所恒星間雲が持つ物理的な性質はいくつか興味深い点があります。まず、その温度は約6,000ケルビン（K）と推定されており、これはなんと私たちの太陽の表面温度とほぼ同じ値です。星間空間のガスとしてはかなり高温であると言えます。

しかし、その高温にもかかわらず、この雲は非常に希薄です。その密度は極めて低く、1立方センチメートルあたりに含まれる原子の数はわずか0.26個程度しかありません。これは、銀河系全体に存在する星間物質の平均的な密度の約5分の1にあたる値です。一方で、この雲を取り囲む、さらに希薄な「局所泡」と呼ばれる領域のガスの密度と比べると、局所恒星間雲は約2倍の密度を持っています。その希薄さをより具体的に理解するために、私たちが暮らす地球の地表付近の空気（標準状態）と比較してみましょう。地上の大気は1立方センチメートルあたり、およそ2.7×10¹⁹個もの分子を含んでいます。これと局所恒星間雲の0.26個/cm³という値を比べると、その密度の桁違いの差がいかに大きいかがわかります。

局所恒星間雲は、私たちの銀河系内に存在する巨大な構造体である「局所泡」と「ループ第一泡」という二つの超新星爆発の痕跡とされる空洞構造が互いに接している境界部分に形成されていると考えられています。このような泡の境界では、ガスが圧縮されて雲を形成することがあります。

興味深いことに、私たちの太陽系だけでなく、いくつかの近隣の恒星も現在この局所恒星間雲の中に位置しています。太陽以外でこの雲に含まれているとされる著名な恒星としては、太陽に最も近い恒星系の一つであるケンタウルス座アルファ星や、夏の夜空に明るく輝くベガ、うしかい座の最も明るい星であるアークトゥルス、そしてみなみのうお座のフォーマルハウトなどが知られています。

このように、局所恒星間雲は、太陽系が現在通り抜けている、温度は高いが非常に希薄な、宇宙空間に浮かぶ巨大なガス雲なのです。太陽系がこの雲の中を移動することで、地球を含む惑星環境にどのような影響が及ぶのかは、引き続き研究されているテーマです。

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