局所泡

局所泡（ローカル・バブル）

銀河系オリオン腕に存在する、星間物質が極めて希薄になった広大な空洞領域です。私たちの太陽系もこの内部を航行しています。局所バブル、ローカル・バブルとも呼ばれます。

概要と物理的特徴

局所泡（きょくしょあわ、英語: Local Bubble）は、天の川銀河の主要な腕の一つであるオリオン腕の中に位置する、巨大な星間物質の空洞構造です。この領域は、周囲の星間空間と比べて物質の密度が非常に低いことが最大の特徴です。

その広がりは少なく見積もっても直径300光年以上にも達します。内部の中性水素原子の密度は、1立方センチメートルあたりわずか約0.05個程度と推定されており、これは銀河系の平均的な星間空間（約0.5個/cm³）の約10分の1、そして太陽系が現在位置している局所恒星間雲（約0.3個/cm³）と比較しても6分の1程度と、極めて希薄な状態にあります。

局所泡の内部には、数百万度にも達する高温のガスが存在しており、このガスからは特徴的なX線が放射されていることが観測によって確認されています。この高温ガスと低密度の状態は、特定の起源を示唆しています。

この低密度の空洞の中には、太陽系を含む「局所恒星間雲（Local Interstellar Cloud）」や「Gクラウド」といった、周囲よりはわずかに物質密度が高い領域が存在しています。

形成原因

局所泡がどのようにして形成されたかについては、過去の大規模な天文現象に起因すると考えられています。現在最も有力視されている説では、およそ1000万年から2000万年前に、この領域で発生した複数の超新星爆発によって周囲の星間物質が吹き飛ばされ、巨大な空洞が作り出されたとしています。

かつては、ふたご座にあるパルサー、ゲミンガを誕生させた超新星爆発が局所泡の主要な原因であるという説が提唱されていました。しかし、2002年に発表された研究成果以降、現在ではプレアデス運動星団の一部を構成する、質量が太陽の約10倍程度あるB型星のグループ（サブグループB1）で、連続して発生した複数の超新星爆発が、局所泡形成の主たる原因であるという説が有力視されています。これらの大質量星の爆発的な最期が、広大な宇宙空間を文字通り「泡立て」、現在の局所泡を作り出したと考えられています。

太陽系との関係

私たちの太陽系は、およそ500万年前から1000万年前の間に、この局所泡の領域に突入したと考えられています。そして、現在もその広大な空洞の中を移動し続けています。

現在、太陽系は局所泡の内部の中でも、比較的物質密度が高い「局所恒星間雲」と呼ばれる領域に位置しています。この局所恒星間雲は、局所泡と、隣接する別の低密度領域である「ループ第1泡」との間に挟まれた、やや密度の高い領域であると理解されています。太陽系は、この局所恒星間雲の中を移動しており、いずれはこの領域を抜け出し、局所泡本体のより希薄な空間、あるいは別の星間領域へと進んでいくと考えられます。

構造と境界

局所泡は完全な球形をしているわけではありません。その形状は複雑で、銀河の円盤に沿った方向（銀河面内）では、やや引き延ばされた卵形や楕円球形に近い形をしています。一方、銀河面に対して垂直な方向には、上下に大きく広がっており、全体としては砂時計のような、あるいは縦に伸びた筒状に近い形をしていると考えられています。

局所泡は、その周囲をいくつかの他の低密度の星間物質の「泡」や構造と境界を接しています。特に顕著なのは「ループ第1泡」です。ループ第1泡は、太陽系から約500光年離れた位置にあり、さそり-ケンタウルス・アソシエーションの若い星々からの強い恒星風や超新星爆発によって形成されたと考えられています。有名な明るい恒星であるアンタレスは、このループ第1泡の中に位置しています。局所泡は、ループ第1泡の他にも、「ループ第2泡」や「ループ第3泡」といった、隣接する他の大きな構造とも接しており、これらの泡状構造が集まって、太陽系周辺の星間空間に複雑なネットワークを作り出しています。

まとめ

局所泡は、私たちの太陽系が存在する銀河系オリオン腕における、数百万年前の超新星爆発群によって作られた巨大な星間物質の空洞です。この低密度で高温な領域は、太陽系を取り巻く宇宙環境を理解する上で重要な構造であり、太陽系が現在通過中の局所恒星間雲を含む、複雑な周辺環境の一部を形成しています。その起源、形状、そして他の構造との関係は、銀河系における星形成や星間物質のダイナミクスを研究する上で、重要な手がかりを提供しています。

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