屑屋

屑屋（くずや）

屑屋とは、家庭や事業所から出る古紙、布切れ、金属類などの廃品を収集し、リサイクル業者や製造元に販売することを生業とする職業、すなわち廃品回収業者のことである。英語では「Garbageman」などと訳されることもある。地域や時代によって「バタ屋」「紙くず屋」「ボロ屋」「くず鉄屋」「てん屋」といった様々な呼び名が存在する。

歴史

この職業は江戸時代には既に存在していたとされる。当時、廃品の回収・流通を担う人々は大きく二つに分けられていた。一つは「切屋」と呼ばれ、町を回って廃品を買い集める者たち。もう一つは「仕切屋」で、切屋から集めた廃品を金属、紙、布などに分類し、それぞれの加工業者や製造会社に販売する役割を担っていた。近代に入り工業が発展するにつれて、原料となる古紙や金属くずなどの需要が増加し、屑屋の役割は社会においてより重要なものとなっていった。

仕事の特徴と社会的背景

かつての屑屋の典型的な姿として、籠を背負い、あるいはリアカーや大八車を牽き、街を歩きながら「くずー、おはらいー」などと独特の呼び声をあげて、人々から不要になった物を買い集めるスタイルがあった。集められる品物は、古新聞、雑誌、段ボールといった紙類、着古した衣類や布切れ、そして鍋釜や鉄くずなどの金属類多岐にわたる。収集した品物は、仕分けた後に資源として再生利用される。

特に戦後の日本では、経済的に恵まれない人々にとって、身分や国籍、学歴を問われることなく従事できる数少ない職業の一つであった。都市部やその近郊においては、特定の集団、例えば生活苦に直面した外国人労働者などが、この仕事の担い手となるケースが多く見られた。しかし、衛生面などで敬遠されることも多く、従事する人々は社会的に低く見られ、時には差別や偏見の目にさらされることもあったとされる。こうした背景から、多くの日本人が積極的に選ばない仕事であり、貧困層や社会的に弱い立場にある人々がその役割を担うことが多かった。

「バタ屋」という呼称の由来

屑屋の別名として広く知られる「バタ屋」という呼称については、いくつかの説が存在する。一つは、河川のほとり（川端）で廃品を拾うことに従事していた人々を指したという説。また、集めた品物をバッタ（量り）で計量して取引したことに由来するという説もある。さらに、江戸時代に隅田川へ捨てられた紙くずを拾い集め、再生して作られた粗悪な紙が「川端紙」や略して「バタ紙」と呼ばれ、このバタ紙を扱っていた人々を「バタ屋」と呼ぶようになったとする説も有力視されている。これらの説は、いずれも屑屋の仕事内容や活動の場所、扱う品物に関連しており、その多様な側面を反映していると言える。

現代における状況

時代の流れとともに労働環境や人々の意識は変化し、かつてのような露骨な職業差別は減少傾向にある。現代では、より組織化された廃品回収業者やリサイクル企業が主流となり、その活動は社会のインフラとして認知されつつある。しかし、個人的に廃品回収を生業とする人々、あるいは不安定な生活の中で日銭を稼ぐ手段としてこの仕事に携わる人々に対しては、依然として根強い偏見や差別が存在することも指摘されている。また、かつて特定の地域に形成された「バタ屋集落」と呼ばれるような、この仕事に従事する人々が集まって暮らす場所が、近世においても確認されているなど、社会の片隅に追いやられがちな存在であったことを示している。

関連事項

屑屋という職業は、ホームレスや貧困といった社会問題、あるいは資源の再利用という環境問題とも深く関わっている。また、物語やフィクション作品の中で、主人公や登場人物の生業として描かれることもあり、社会や人間の営みの一断面を示す存在として興味深い存在と言える。

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