山下啓次郎

山下啓次郎：明治・大正期の建築家

山下啓次郎（1868年1月12日-1931年2月6日）は、明治から大正時代にかけて活躍した日本の建築家です。鹿児島県士族の家に生まれ、東京で高等教育を受けました。帝国大学工科大学（現在の東京大学工学部）を卒業後、辰野金吾氏に師事し、建築の基礎を築きました。同期の伊東忠太氏と共に日本の近代建築を牽引した一人と言えるでしょう。

卒業後は警視庁に入庁し、その後司法省に移って営繕を担当しました。1901年には欧米の監獄を視察し、その経験を活かして帰国後、日本の五大監獄の設計に携わりました。これは、彼の建築家としての技術と、社会貢献への強い意志を示す重要な業績と言えるでしょう。

建築家としての活動と並行して、山下啓次郎は教育にも携わりました。1930年には、法政大学工業学校の校長に就任し、後進の育成に尽力しました。彼の没後も、彼が設計した建築物や、彼が残した建築思想は、日本の建築界に大きな影響を与え続けています。

家族と親族

山下啓次郎の妻、直子は、日本のミスコン優勝者第一号と言われた末弘ヒロ子の姉でした。このことは、彼の私生活の一端を垣間見ることができ、彼の知的な側面だけでなく、時代を彩った華やかな一面も想像させるエピソードと言えます。

彼の孫にあたるジャズピアニスト、山下洋輔氏は、祖父である啓次郎の生涯をテーマにした小説『ドバラダ門』を執筆しています。この小説は、単なる伝記にとどまらず、時代背景や家族関係、そして山下啓次郎の建築家としての思想を深く掘り下げた作品として高く評価されています。

山下家には、啓次郎の他に、息子が四人、娘が二人いたことが分かっています。また、彼の姉の栄は、大山綱昌氏の最初の妻であり、その後、啓次郎の妹の徳と大山綱昌氏が再婚したという興味深い家族関係も存在しました。

業績とその後

山下啓次郎の設計した建築物は、残念ながら現存するものは少ないと考えられます。しかし、彼の設計した五大監獄は、日本の近代監獄建築史において重要な位置を占め、彼の技術と才能を物語っています。

彼の生涯は、近代日本の建築史、そして社会史を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。建築家としての技術だけでなく、教育者としての貢献、そして彼を取り巻く家族や親族との関係性も、彼の複雑で豊かな人生を理解する上で欠かせない要素です。

彼の業績は、多くの資料から詳細な調査が必要とされ、今後更なる研究が期待されます。特に、現存する設計図面や建築物があれば、彼の建築思想をより深く理解することができるでしょう。

山下洋輔氏の小説『ドバラダ門』は、山下啓次郎の生涯を知るための貴重な資料であり、彼の建築家としての側面だけでなく、人間としての魅力を伝える作品として広く読まれています。この小説を通して、明治・大正期の日本社会と、その中で生きた一人の建築家の姿をより深く知ることができるでしょう。

参考文献

『東京帝国大学一覧 明治27-28年』東京帝国大学、1886-1912年
人事興信所編『人事興信録 第7版』人事興信所、1925年
人事興信所編『人事興信録 第8版』人事興信所、1928年
山下洋輔『ドバラダ門』 新潮社1993年、朝日文庫2017年

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