山吉行盛

山吉行盛（やまよし ゆきもり）は、日本の歴史において、室町時代前期に越後国（現在の新潟県）で活動したと見られる武士です。彼の存在が確認できる史料は極めて限られており、その生涯の詳細はほとんど分かっていません。しかし、山吉氏という武士団の歴史を辿る上で、現在までに見つかっている確実な史料の中にその名が記された最も古い人物であると考えられています。

山吉氏は越後国内において一定の勢力を持っていた武士団であり、当時、越後の守護代として強大な力を持っていた長尾氏の被官（家臣団）であったことが知られています。このことは、室町時代中頃に作成されたとされる『蒲原郡段銭帳』などの史料からも示唆されており、長尾氏の支配体制の下で、山吉氏が越後国の重要な地域である蒲原郡において役割を担っていたことが窺えます。山吉行盛もまた、こうした当時の山吉氏の状況を踏まえると、長尾氏との関係の中で活動していた人物であったと推測されます。

彼に関する確実な史料は、現在のところ一点のみに留まっています。それは、応永29年（1422年）に発給された一つの安堵状（領地や権利などを保証する文書）です。この文書の中で、山吉行盛は自身の役職として「蒲原郡代（かんばらぐんのだい）」と署名しています。蒲原郡代とは、越後国を統治していた守護や守護代の指揮の下で、広大な蒲原郡の実務を担う重要な役職であり、その権限は多岐にわたったと考えられます。徴税、治安維持、領地の管理など、郡内の支配に関わる広範な権限を持っていたと推測されます。

応永29年の安堵状は、黒川基実という人物に対して宛てられたものです。文書の内容は、黒川氏が自身の支配する領域において、検断権（けんだんけん）を行使すること、すなわち罪を犯した者を捕らえ、取り調べ、裁き、処罰する権限を保証すること、そして、越後国と出羽国（現在の山形県）の国境付近にあった要衝、鼠ヶ関（ねずがせき）で通行者から徴収する関銭（せきせん）（通行税）に関する権限を認めるというものでした。戦国時代以前の武家社会において、検断権は地域支配の根幹をなす権力であり、また関銭は交通の要衝を押さえることによる重要な経済的収入源でした。蒲原郡代という立場の山吉行盛が、こうした重要な権限を黒川氏に対して安堵していることから、当時の行盛が蒲原郡においてかなりの実権を有していたことが窺えます。

しかしながら、前述の通り、山吉行盛の名前が登場する史料は、現在のところこの応永29年の安堵状ただ一点のみです。このため、彼の生没年や出身、家族構成、この文書を発給するに至った詳細な経緯、そしてこの時期以外の活動や晩年については、現在のところ全く分かっていません。

さらに、山吉氏の人物として確実な史料で最初に確認できるにも関わらず、後世に編纂された山吉氏の系図類には、彼の名前が見当たらないという特異な状況にあります。これは、当時の系図が必ずしも全ての家族や分家を網羅していなかった可能性や、山吉行盛が系図に残りにくい立場にあった可能性など、様々な理由が考えられますが、その正確な理由は不明です。このことは、山吉氏の正確な系譜を辿る上での歴史研究上の大きな課題となっています。

山吉行盛は、わずか一点の史料によってその存在が確認されるにとどまる、歴史の闇に隠された人物と言えます。しかし、その一点の史料から、室町時代前期における越後国蒲原郡の支配構造の一端や、長尾氏被官である山吉氏が果たしていた役割、そして当時の検断権や関銭といった権力が持つ意味合いなどを読み取ることができます。彼の存在は、山吉氏という武士団の初期の活動を知る上で貴重な手がかりを与えるものですが、同時に、史料の制約から多くの謎を残した人物でもあります。

彼の活動や山吉氏に関する研究については、以下の参考文献が参考になります。

* 三条市史編修委員会『三条市史 上巻』、1993年

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