山崎富栄

山崎 富榮（やまざき とみえ）に関する詳細

山崎富榮は、1919年に東京市本郷区で生まれた日本の美容師であり、作家太宰治との関係で広く知られています。彼女の父は、日本で初めての美容学校「東京婦人美髪美容学校」の設立者であり、富榮はその次女として、幼少期から美容技術を学びました。女性たちの美を追求する家庭環境で育った彼女は、独自の道を歩みながら、美容師としてのキャリアを築いていきます。

富榮は京華高等女学校から錦秋高等女学校へと進み、無事に卒業した後はYWCAで聖書や英語、演劇を学びました。この際の師匠は高見澤潤子であり、彼女は小林秀雄の実の妹にあたります。将来の夢に向かって心を奮い立たせつつ、彼女は義姉と共に銀座で「オリンピア美容院」を経営するなど、美容の世界に身を置きました。

1944年12月、富榮は三井物産の社員である奥名修一と結婚。しかし新婚生活は長続きせず、修一はすぐに赴任先のフィリピンで行方不明となります。この悲劇は、彼女の心に大きな影を落としました。数ヶ月後、東京大空襲により、美容院と美容学校が焼失し、富榮は家族と共に滋賀県に疎開を強いられます。

1946年には、美容師としての再出発を果たし、義姉およびお茶の水美容学校の卒業生と共に鎌倉市で新しい美容院「マ・ソアール」を開きました。その後、東京都三鷹市に移住し、ミタカ美容院に勤務しながら、進駐軍専用キャバレー内の美容室にも働くなど、多忙な日々を送りました。

彼女の人生に劇的な変化が訪れたのは、1947年の春のことでした。飲食店で偶然出会った太宰治との関係が始まり、その後の彼女の生涯を大きく変えることとなります。太宰は当時、多くの作品を発表しており、彼の才能に魅了されつつも、富榮は彼の複雑な人生にも巻き込まれていくことになります。富榮は太宰の著書を一冊も読んでいなかったものの、太宰との会話を通じて、彼の作品や思考に対する理解を深めていきました。

恋愛関係が始まると、富榮は太宰の健康を支える看護役を担い、彼の生活や執筆活動をサポートしました。だんだんと太宰の愛人としての立場を確立していく一方で、太宰の家庭環境に対する配慮も忘れませんでした。しかし、彼女は次第に太宰との関係に不安を抱き始め、やがて嫉妬心や不安定感に悩まされるようになっていきます。

1948年6月、彼女は深い悲しみの中で、太宰と共に玉川上水へと入水し、二人の命を絶ちました。彼らは、愛し合う存在でありながら、人生の困難を共に背負いきれず、自らの選択によって同時にこの世を去ることを決意したのです。

その後、富榮の遺体は、太宰のものと共に発見されました。彼女の死の様子は非常に恐怖に満ちたものであったと伝えられ、太宰とは対照的に穏やかな表情で発見されたことは、彼女の心の葛藤を物語っています。

富榮の短い生涯は、多くの文献や作品に影響を与え、彼女の存在は今もなお太宰治の作品の中で語り継がれています。彼女の波乱に満ちた生涯と選択は、愛と死、そして生きることの難しさについて考えさせられる深いテーマを提供します。

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