山手133番館

山手133番館は、神奈川県横浜市中区山手町に位置する歴史的な西洋館です。この建物は、山手に残る数少ない西洋館の一つとして、その存在が注目されています。2020年、市内の洋菓子店によって取得され、修復と保全が行われました。

歴史

2015年の横浜国立大学大学院による調査で、この館の建築主はイギリス人貿易商のブロックハーストであることが判明しました。当初は外国人向けの住宅として建てられ、家屋課税台帳によれば、建築時期は関東大震災後の1930年頃と推定されています。当時の記録では、ライジングサン石油の関係者が初期に入居していたことがわかっています。

第二次世界大戦後、1945年から1953年までの間は占領軍に接収されましたが、それ以外の期間は貸家として利用され、パンアメリカン航空やIBMなどの家族が居住しました。接収期間中は、米軍大佐のバーンズが住んでいました。バーンズは、ユタ州のダグウェイ実験場にアントニン・レーモンドが設計した「日本村」を設け、日本家屋を効率的に燃焼させる焼夷弾の実験を行っていました。この実験にはスタンダード・オイルが協力し、レーモンドが日本でスタンダード・オイル関連施設に関わっていたことが背景にあるとされています。

戦後、所有権が日本人に移り、1983年には薬師丸ひろ子主演の映画『探偵物語』のロケ地としても使用されました。2011年の東日本大震災時には、煙突が折れる被害を受けています。

2017年には、所有者が売却を希望し、横浜歴史資産調査会や横浜市役所との間で話し合いが持たれましたが、資金面の問題から買取は実現しませんでした。しかし、この状況を憂慮したのが、中区長者町で「パティスリー モンテローザ」を経営する三陽物産社長の山本博士氏です。山手地区に残る洋館が減少する中、山手133番館の解体を危惧した山本氏は、2020年に不動産サイトで売りに出されていたこの物件を会社名義で取得しました。

2021年3月31日には、横浜市認定歴史的建造物に認定され、市の助成を受けることが可能になりました。三陽物産は、創業60周年記念事業として、2021年6月から修復工事を開始しました。修復にあたっては、1957年から1964年にかけてこの家に住んでいた元住人とも連絡を取り、当時の様子を知ることができました。

2022年2月に屋根の葺き替えと耐震補強工事が完了し、その後外壁や内装の修復、外構工事が進められ、2022年6月30日に全面的な修復工事が完了しました。

2023年3月には、建物の一部を囲む「ブラフ積擁壁」が横浜市の歴史的建造物に認定されました。

建築と修復

施工は宮内工務店によるものと考えられており、設計者については不明ですが、同時期の建築物との類似点からアントニン・レーモンドの関与が示唆されています。山手本通りから少し離れた高台に位置し、ワシン坂方面に開けた眺望を持っています。かつては、目の前に海が広がっていたと考えられています。敷地内には、明治時代に築造されたと推定されるブラフ積みの石垣が残っています。

建物は、2階建てのスパニッシュスタイルの主屋と、東側の付属屋、主屋北側の車庫から構成されています。主屋の1階には、居間、応接間、食堂、台所、パントリーなどがあります。居間には暖炉とベイウィンドウがあり、食堂とは大きな引き戸で仕切ることができます。2階には、3つの寝室と2つの浴室があります。付属屋は和室で、主に使用人が使っていました。

耐震補強と外観の復元は、建築士の兼弘彰氏が担当し、昭和初期のオリジナルな姿をできる限り再現することを目標としました。修復前の外観は白でしたが、塗装を剥がした結果、元の色が黄色であることが判明し、黄色に塗り替えられました。屋根のフランス瓦は、約3割が破損していましたが、港北区にある横浜市認定歴史的建造物から譲り受け、不足分は愛知県の業者に特注して調達しました。内部は、現代の住居としての使用を考慮し、照明や空調はデザインを損なわない範囲で新調され、水回りも最新の設備が導入されました。

修復工事の完成を記念して、2022年10月1日にはリードオルガンのコンサートが開催されましたが、原則として内部は非公開となっています。物件取得から修復工事完了までの経緯は、YouTubeチャンネルで公開されています。

山手133番館は、その歴史的価値と美しい建築様式を今に伝える貴重な遺産であり、修復によって新たな命を吹き込まれ、これからも多くの人々にその魅力を伝えていくことでしょう。

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