山本光春

山本 光春（やまもと みつはる）は、明治38年（1905年）4月26日に岡山県岡山市で生まれ、昭和63年（1988年）2月24日に82歳でその生涯を閉じた日本の実業家、ジャーナリストです。

昭和初期の1926年に明治大学専門部経済学科を卒業した後、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、1928年には東京日日新聞社（現在の毎日新聞社の前身の一つ）に入社しました。

戦時を経て、1945年には新潟日報社へ籍を移しますが、その後再び毎日新聞社に戻り、要職を歴任していきます。1955年には毎日新聞東京本社の編集局長に就任し、報道の現場を指揮する立場となります。続いて経営部門にも深く関わるようになり、1958年には取締役西部本社代表、1961年には常務取締役、1967年には専務東京本社代表と昇進を重ねました。そして1970年には副社長となり、経営の中枢を担います。

そのキャリアの頂点として、1972年1月から1974年11月までの期間、毎日新聞社の代表取締役社長を務めました。社長退任後も1977年12月には社友として新聞社との関わりを持ち続けました。1988年2月24日、東京都千代田区内の病院にて急性心不全により逝去。

ジャーナリスト・経営者としての山本氏の生涯には、新聞界の激動期を象徴するエピソードがいくつかあります。

特に知られているのが、第二次世界大戦中の「竹槍事件」と呼ばれる出来事です。当時、整理部副部長であった山本氏は、ジャーナリストの新名丈夫氏が執筆した戦況に関する記事に対し、「勝利か滅亡か 戦局はここまで来た」そして「竹槍では間に合わぬ 飛行機だ、海洋航空機だ」という、非常に現実的かつ挑戦的な見出しをつけました。これは、当時の大本営発表とは異なる厳しい戦況を示唆し、精神論だけでは戦えない現実を突きつけるものでした。結果として、この記事の見出しは軍部からの強い反発を招きました。山本氏は直接的な処分を受けることはありませんでしたが、その責任を感じ、謝罪の意を示すために髪を丸刈りにしたといわれています。これは、戦時下の厳しい言論統制の中で、ジャーナリストが権力に対して見せた稀有な抵抗の姿勢を示すエピソードとして語り継がれています。

また、山本氏が社長在任中には、「西山事件」が発生しました。これは、毎日新聞社の記者による取材活動を巡る問題で、当時の社会に大きな波紋を投げかけました。この事件は、報道の自由と国家機密、そしてジャーナリズムの倫理といった、極めて複雑で今日的な課題を浮き彫りにしました。山本氏は社長として、この困難な状況下で組織を率い、事態への対応にあたらなければなりませんでした。この事件は、ジャーナリストであると同時に組織の経営者であった山本氏にとって、経営者としての重責を改めて痛感させる出来事であったと言えます。

山本光春氏の生涯は、一人のジャーナリストが言論の最前線で戦い、やがて巨大な新聞組織の経営を担い、激動の時代の中で様々な困難に直面しながらも、新聞の使命を果たそうとした軌跡と言えます。氏の生涯や功績、そして激動の時代における新聞社の内情については、『山本光春追想録』に詳しい記述が残されています。

ジャーナリストとして、そして実業家として、山本氏は昭和史における日本のメディア界に確かな足跡を残しました。彼の経験した出来事は、現代のジャーナリズムが直面する課題を考える上でも示唆に富んでいます。

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