山本英一郎

山本英一郎氏（1919年-2006年）は、日本のアマチュア野球界にその名を刻んだレジェンドです。岡山県出身の氏は、台北第一中、慶應義塾大学と進学し、卒業後は社会人野球の鐘淵紡績で外野手としてプレーしました。

選手生活の後、審判員や解説者としてのキャリアを歩み始めます。特に1955年からNHK高校野球解説者として活躍した氏は、松永怜一氏、池西増夫氏らと共に「解説八人衆」と呼ばれ、高い人気を博しました。氏の解説は、ゲーム展開を的確に予測する独特の勘に基づいたもので、数々の名場面を生み出しました。中でも有名なのは、1973年の春の選抜準決勝、作新学院対広島商業戦での、8回裏の作新学院捕手の三塁悪送球の予測です。この鋭い洞察力は、今も語り継がれています。

山本氏のライフワークは、野球の国際化でした。国際野球連盟(IBAF)の日本代表として、精力的にオリンピック競技種目への採用を訴え続けました。IOC総会へのロビー活動にも積極的に取り組み、その結果、IBAF加盟国は100を超え、1984年ロサンゼルスオリンピックでは公開競技、1992年バルセロナオリンピックでは正式競技として野球が採用されるという大きな成果を収めました。

オリンピックでの野球競技化成功に留まらず、国内のアマチュア野球の統一を図るため、全日本アマチュア野球連盟の発足にも尽力しました。国内の選手派遣のばらつきを解消し、国際的な競争力強化に貢献しました。

1997年には日本野球連盟会長に就任し、IBAF副会長も兼任しました。高齢にもかかわらず、旺盛な活動力で国際野球界を牽引し、その献身的な姿勢はIOCからも高く評価されました。2000年シドニーオリンピックでのプロ野球選手参加解禁をいち早く見据え、プロ野球側と積極的に交渉し、1999年のアジア野球選手権には8人のプロ野球選手を参加させることに成功しました。また、2004年アテネオリンピックでは、金メダル獲得を目指し、オールジャパンチームの編成をプロ側に要請するなど、強いリーダーシップを発揮しました。

キューバのフィデル・カストロ国家元首とも親交があり、キューバ人選手の招聘にも成功するなど、国際交流にも大きな貢献を果たしました。

2005年、高齢を理由に日本野球連盟会長、IBAF副会長を退任しました。同年、都市対抗野球最終日の表彰式では「都市対抗バンザイ! 社会人野球バンザイ!」と叫び、社会人野球への熱い想いを改めて示しました。

1997年には野球殿堂入りを果たし、晩年まで社会人野球や国際大会の会場に姿を見せるなど、現役時代から培ってきた野球への情熱を生涯持ち続けました。2006年、ワールド・ベースボール・クラシックの視察中に急逝しました。享年87歳。

山本氏は、選手、審判員、解説者、そして指導者として、日本の野球界に計り知れない貢献をしました。その功績は、後世に長く語り継がれることでしょう。Kボールの発案など、野球界の発展に貢献した様々なエピソードも、氏の多才ぶりを物語っています。実弟である山本英雄氏も、同じ球歴を辿った人物でありながら、レイテ沖海戦で戦死したという、対照的な人生を送った兄弟のエピソードもまた、興味深いものです。

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