山村修

日本の書評家であり随筆家であった山村修（やまむら おさむ）は、1950年に生を受け、2006年8月14日にその生涯を閉じた。東京都出身。

経歴

慶應義塾大学文学部仏文学科を卒業後、学校法人青山学院に勤務し、同大学の図書館司書として長らく勤め上げた。サラリーマンとして働く傍ら、執筆活動を行った。

書評活動「狐」

山村修の執筆活動で特筆されるのは、書評家としての顔である。彼は「狐」という匿名性の高い筆名を用い、主に夕刊紙である日刊ゲンダイに書評を寄稿した。この連載は、高校時代からの友人であり日刊ゲンダイの編集者であった竹村洋一の勧めにより、1981年2月に開始された。当初は不定期の掲載であったが、次第に水曜日発売分（木曜日付）の「新刊読みどころ」というコラムに定着する。

この連載は2003年7月に体調不良のため終了するまで、約22年半、合計1188回という驚異的な回数を重ねた。一回あたり800字弱という短い形式ながら、その内容は娯楽記事が中心の紙面の中で異彩を放ち、読書家の間で大きな話題となった。匿名であった筆者「狐」の、書籍に対する鋭い洞察と、その浩瀚な知識は多くの読者を惹きつけた。

書評の姿勢においては、読むべき本そのものを前面に押し出すことを重んじ、書評家が自己主張の道具として本を利用することには否定的であった。多くの書評で本の読みどころを好意的に紹介する一方、筒井康隆の著書『虚航船団』を「退屈」と評したことから、筒井本人からの攻撃を受けるという出来事もあった。

書評の執筆場所としては、一時「宝島30」や「東京人」といった他の媒体にも活動の場を広げたものの、最終的には日刊ゲンダイ一本に絞るなど、同紙を最も重要な執筆の場として位置づけていた。

日刊ゲンダイでの連載終了と前後して、活動の舞台を文芸誌「文學界」へと移した。ここでは「文庫本を求めて」と題し、2003年8月号から亡くなる直前の2006年7月号まで、月一回のペースで文庫本の紹介を行った。この連載は、彼の死後、2007年に『書評家〈狐〉の読書遺産』として一冊にまとめられている。

「狐」としての実名は長らく伏せられていたが、死去直前の2006年7月に出版された著書『〈狐〉が選んだ入門書』（ちくま新書）において、初めて自身の本名を公表した。

随筆活動

書評とは異なり、随筆の執筆においては本名である山村修名義を用いた。そのテーマは多岐にわたり、自身の体験に基づいたものが多かった。

1998年には、自らの禁煙体験を綴った『禁煙の愉しみ』を刊行。さらに不眠の経験から生まれた『気晴らしの発見』、速読が重視される現代において、あえてゆっくり読むことの意義を説いた読書論『遅読のすすめ』など、ユニークな視点からの著作を発表した。晩年には日本の伝統芸能である謡曲に深く傾倒し、謡曲を読むことの面白さを綴った『花のほかには松ばかり』が生前最後の著作となった。

晩年と死

2006年8月14日、肺癌のため56歳で逝去した。書評家、随筆家として円熟期を迎える中での早すぎる死であった。

その他

コラムニストの中野翠とは、曾祖母同士が姉妹という遠い親戚関係にあたる。

主な著作

山村修は「狐」名義および本名で多くの著作を残している。

「狐」名義

• - 『狐の書評』（本の雑誌社、1992年）
• - 『水曜日は狐の書評　日刊ゲンダイ匿名コラム』（ちくま文庫、2004年）

山村修名義

• - 『禁煙の愉しみ』（洋泉社、1998年）
• - 『遅読のすすめ』（新潮社、2002年）
• - 『〈狐〉が選んだ入門書』（ちくま新書、2006年）
• - 『花のほかには松ばかり　謡曲を読む愉しみ』（檜書店、2006年）
• - 『書評家〈狐〉の読書遺産』（文春新書、2007年）

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