謡曲

謡曲とは

謡曲（ようきょく）は日本の伝統的な演劇形式である能における詞章のことを指し、演劇で言うところの脚本に相当します。元々は「謡」と称されていましたが、大正から昭和初期にかけて「謡曲」と呼ばれるようになりました。これは「謡の曲」という意味を含みます。この記事では、謡曲そのものが持つ特質や歴史、そしてそれに関連する文献について詳しく探ります。

概要

能はその成立過程において、自ら作曲し演じる形式が基本とされました。そのため、謡曲の数は現存しないものも含めて約二千曲に達します。多くは江戸時代以前に作られたもので、実際の作者は不明なものが多いです。その中で確認できているのは、観阿弥や世阿弥、金春禅竹などの著作が約二、三割を占めます。これらの曲の中には、既存の曲を改作したり新しい内容を加えたものがあるため、単純に作者を特定することは難しいのです。

世阿弥の自筆本がいくつか現存しており、これに用いられているのは片仮名となっています。また、謡曲は台詞と地の文に分かれており、使用される表現技法としては古歌や古詩の引用、縁語や掛詞などが凝らされた和文体となっています。これらの本文は「小段」と呼ばれる細かい単位へと分割することが可能であり、特定の曲の構成も示されています。

例えば、能の『高砂』の冒頭部分では、さまざまな「小段」が用意されており、再現することでその演出を理解する手助けとなります。演者はこの「小段」に従って表現を行い、観客にストーリーを伝える役割を果たします。このように、謡曲は intricate な構造を持ち、ストーリー全体を「小段」の集合によって成り立たせているのです。

謡本の歴史

安土桃山時代から寛永期にかけて、武士や町人の間で能が好まれ、謡自体が独立した形で人気を博しました。この時期に謡曲の稽古用に作られた書籍が「謡本」と呼ばれるものであり、古くは「能の本」とも称されていました。謡本には古豪華に装丁されたものも存在し、特に嵯峨本はその一例です。

江戸時代には、一般に知られた曲目を「内組」、あまり知られたくないものを「外組」として謡本が発行されました。また、すでに上演されなくなった曲を集めた番外曲として出版されたものも多く、結果として六百番近くの謡本が流通しました。特に観世流の謡本はこの時期に広く普及しましたが、各流派の家元に発行権が帰属することが規範でした。

現在、謡浦曲の伝承は口伝によるため、必ずしも謡本に頼るわけではありませんが、謡本は能の舞台進行を学ぶ上で非常に有益です。近年、謡曲の流儀としては観世流、宝生流、金剛流、金春流、喜多流、下掛宝生流といった流派が存在し、それぞれが謡本を発行しています。

参考文献

さまざまな文献が謡曲の研究と理解を助けています。特に、岩波書店の『謡曲百番』や、平凡社の『能・狂言事典』などは、学術的にも重要な資料として認識されています。これらの資料を通して、謡曲の深い世界観や背景、そしてその発展について探究することが可能です。

謡曲は日本の文化遺産において重要な役割を果たし、豪華で美しい表現を持つ伝統芸能です。その先人たちの努力と創意工夫が形作ったこの文化を、今後も大切に守り続けていく必要があるでしょう。

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