山梨時事新聞

山梨時事新聞：激動の時代を駆け抜けた地方紙の軌跡

山梨時事新聞は、1946年3月1日に山梨県で産声を上げ、1969年3月末に惜しまれつつも終刊となった日刊新聞です。最盛期には12〜16ページ建てで約5万部を発行し、地域社会に大きな影響を与えました。その短いながらも激動に満ちた歴史を紐解きます。

創刊の背景：農民運動家・小野永雄の熱い思い

創刊者は、農民運動家の小野永雄。戦時中の言論統制を痛感した小野は、自由な言論の必要性を強く感じ、同志たちと株式会社を設立。一株50円という少額の出資を募り、農民や商店主、知識人らの協力を得て創刊に漕ぎ着けました。

農民文学作家の山田多賀市も小野の志に共鳴し、多額の出資を行いました。小野は人材を求め上京し、板垣書店で中鮮日報の社長だった冨士平と出会い、その人物に惚れ込みます。三顧の礼をもって冨士を迎え、備仲玉太郎と共に編集体制を確立しました。

革新的論調と山梨日日新聞との対立

山梨時事は、小野の意志を受け継ぎ、革新的な論調を展開。明治時代から体制寄りの山梨日日新聞と対立しながらも、読者の支持を集め、発行部数で山梨日日を上回ることもありました。

しかし、1958年に小野が急逝すると、求心力を失い経営は悪化。1965年には、カラー印刷導入のために増資を計画しますが、株主の弱体さから難航します。そこに現れたのが、富士急行の総帥・堀内一雄でした。

知事選を巡る対立と凋落

1967年の山梨県知事選挙で、富士急行が推す現職知事・天野久を山梨時事が、対立候補の田辺国男を山梨日日が支持。両紙は激しい選挙戦を繰り広げ、それぞれの陣営の優位性を主張しましたが、結果は田辺の圧勝に終わります。これにより山梨時事は信用を失墜し、部数は大幅に減少しました。

終刊、そして労働争議へ

1969年2月、富士急行は山梨時事の全株式を山梨日日に譲渡。山梨日日は県内日刊紙市場を独占することに成功しました。一方、富士急行はテレビ山梨の株式を増やし、経営における優位性を確立しました。

当初、山梨時事の社員は解雇される予定でしたが、労働組合がスト権を確立し対抗。しかし、会社側は退職金を増額して退職勧奨を行ったため、多くの社員が退職。最終的に、会社側は残った組合員を解雇し、山梨時事新聞は1969年3月31日に休刊、翌年3月に廃刊となりました。

山梨時事新聞は、短い期間ながらも山梨県の言論界に大きな足跡を残しました。その革新的な姿勢は、地域社会に新たな視点をもたらし、人々の記憶に深く刻まれています。

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