山梨稲川

山梨稲川：江戸後期の漢詩人と説文学

山梨稲川（やまなし とうせん）は、明和8年（1771年）に生まれ、文政9年（1826年）に没した江戸時代の漢詩人であり、説文学者です。幼名を千代蔵といい、名は憲、後に治憲と改めました。通称は東平、字は玄度、子叔、子発など多数あり、号は昆陽、於陵子、不如無斎、稲川、楽山亭などを用いていました。

生涯

出自と修学

稲川は平氏を自称する山梨氏の家柄に生まれました。幼少期から学問に励み、檀那一乗寺で威山独雄に学びました。その後、一麟能仁の私塾である楽山亭で句読を学び、天明元年（1781年）には江戸に出て峨山慈棹や趙陶斎に師事し、学問を深めます。峨山慈棹からは出家を勧められるも、母に連れ戻され、地元では柴田権左衛門に師事しました。天明7年（1787年）には再び江戸へ出て、陰山豊洲に古文辞学を学びます。

昆陽時代

寛政6年（1794年）に高木喜左衛門の娘である豊と結婚し、小屋敷村に新居を構えて分家しました。「昆陽」と号し、文人との交流を深めながら詩作に励みます。しかし、官職に就けず田舎暮らしに甘んじている鬱屈した思いを抱えていたようです。文化2年（1805年）頃には、本居宣長門下の村松春枝と交流し、音韻学に影響を受けました。

稲川時代と晩年

文化8年（1811年）には、稲川村に移住し、稲川と号しました。同年、駿府町奉行の服部貞勝から「駿河大地誌」編纂事業の総裁を命じられますが、服部貞勝の転任により事業は頓挫しました。文政元年（1818年）に稲川村を離れ、城下に移り住み、楽山亭と号しました。文政3年（1820年）に再び移住し、華圃精舎と称しました。文政4年（1821年）には、生涯唯一の刊行物となる『稲川詩草』を出版しました。文政9年（1826年）に江戸で病に倒れ、7月6日に息を引き取りました。遺骨は駿府宝泰寺に葬られました。

学問と著作

稲川は古文辞学を修め、特に漢字・音韻の研究に没頭しました。著作は多数ありますが、生前に刊行されたのは『稲川詩草』のみです。しかし、遺稿が数多く保存されており、後世になって数度公刊されています。

詩文

『稲川詩草』は、古詩・絶句・律詩など694首を収めた詩集です。その他にも、「昆陽詩集」や「不如無斎詩稿」など多くの詩稿が残されています。また、『随輿私筆』や『晦休録』などの日記も残されています。

説文学

説文学の著書としては、「文緯」「古音譜」「古声譜」「諧声図」「考声微」「古音律呂三類」などが存在します。これらの著書は、稲川の漢字・音韻に対する深い知識と研究の成果を示しています。

後世の評価

稲川は生前こそ限定的な評価でしたが、明治時代に清の学者である兪樾に詩を絶賛されたことで評価が高まりました。また、説文学の著作についても再評価が進み、昭和2年（1927年）には正五位が贈られました。国分青崖は稲川の才能を高く評価しています。

親族

稲川の父は維亮、母は志賀であり、兄弟姉妹も多くいました。妻は豊であり、多くの子をもうけました。子孫には、成蹊学園創立者の中村春二や微生物学者の中村浩などがいます。

山梨稲川は、江戸時代後期に独自の学問を追求し、後世に再評価された漢詩人・説文学者です。その詩文や説文学の研究は、現代においても価値あるものとして評価されています。

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