山﨑夏生

山﨑 夏生（やまざき なつお）

1955年7月2日、新潟県高田市（現：上越市）に生まれた山﨑夏生氏は、長年にわたりパシフィック・リーグ一筋で活躍したプロ野球審判員である。

野球への情熱と異色のキャリアパス

幼い頃から野球に情熱を燃やし、プロ野球選手になることを夢見ていた。地元の高田高校を卒業後、一年間の浪人生活を経て北海道大学文学部国文科に進学。大学時代は硬式野球部に所属し、投手と内野手を兼任した。この頃もなおプロ入りを諦めていなかったが、四年次に負った怪我の影響から思うような活躍ができず、選手の道を断念せざるを得なかった。

大学卒業後の1978年、日刊スポーツ新聞社に入社。しかし、希望していた記者職ではなかったことに物足りなさを感じていた。そんな中、テレビで観戦した日本シリーズをきっかけに、審判という職業の存在を知り、強い関心を抱くようになる。すぐさまパ・リーグ会長に面会を求め、審判採用を願い出たが、実務経験がないことから一度は断られた。それでも審判への道を諦めきれず、1981年に新聞社を退社。現役審判員から直接指導を受けるなど、文字通りゼロから審判技術の習得に励んだ。その熱意が認められ、異例ながらパ・リーグ審判部のトレーニングを受ける機会を得ると、その後のテストに合格し、1982年に東京審判部へ入局を果たした。

審判としての苦闘と成長

審判員としてのキャリアは決して順風満帆ではなかった。入局初年の年俸は160万円と、当時のプロ野球関係者全体で最も低く、家族を養うために約10年間にわたりアルバイトを兼業する必要があった。プロの現場で四年目を迎えた頃には、自身の技量不足を痛感し、ジャッジに対する自信を失いかけたという。しかし、そこで挫けることなく、「80%の力しか出せないと感じるなら、120%の技量を身につければ良い」という考えに至り、猛練習によって審判技術の向上に邁進した。この努力が実を結び、審判になって15年目には、ようやくプロとして通用する技量を習得できたという実感を抱けるようになった。

記憶に残る試合と記録

山﨑氏は、パ・リーグの歴史に刻まれた数々の試合に立ち会っている。

• - 1987年5月23日、柏崎市佐藤池野球場で行われた南海対ロッテ戦では三塁塁審を担当。この試合は日没により、プロ野球史上初のサスペンデッドゲームとなった。
• - 1988年10月19日、川崎球場で行われたロッテ対近鉄のダブルヘッダー（通称「10.19」）では、第1試合で左翼外審を務めた。
• - 1989年10月12日、西武球場（当時）での近鉄対西武ダブルヘッダー第1試合では三塁塁審、第2試合では右翼外審を担当。この試合では近鉄のラルフ・ブライアント選手が2試合にまたがり4打数連続ホームランを放つという驚異的な記録が生まれた（第1試合で3本）。

また、厳格なジャッジで知られ、監督や選手への退場宣告も多かった。

• - 1991年5月10日、東京ドームでの日本ハム対ロッテ戦で、判定に猛抗議したロッテの金田正一監督に対し、当時としては最多記録となる8度目の退場処分を宣告した。
• - 2005年には、オリックスの仰木彬監督に退場を宣告。このとき70歳3ヶ月だった仰木監督は、退場者としては当時の最高齢記録を更新した。

通算の退場宣告回数は日本プロ野球史上最多となる17回（2009年時点）を数える。

キャリア終盤と引退、その後

2010年には、自身の出身地である新潟で開催されたオールスターゲームに塁審として出場し、ファンにその姿を見せた。同年10月1日、千葉マリンスタジアムで行われたロッテ対オリックスのシーズン最終戦で三塁塁審を務めたのを最後に、定年により審判員生活にピリオドを打った。パ・リーグ一筋29年間の現役生活における通算出場試合数は1451試合。オールスターゲームには3回（1993年、2007年、2010年）出場したが、日本シリーズやパ・リーグプレーオフの出場経験はなかった。

審判員時代の背番号は、入局時から1998年まで「15」を着用。1999年からは、指導員に転じた寺本勇氏から引き継ぎ「14」を背負い、引退までこの番号をつけた。

現役引退後も野球界への貢献を続け、2011年からは審判技術委員（関東地区担当）として後進の指導にあたり、2012年からは日本野球規則委員会委員も務めた。2018年をもって審判技術指導員を退職している。

自身の経験に基づき、2冊の著書を出版している。

• - 『プロ野球審判ジャッジの舞台裏』（2012年）
• - 『全球入魂! プロ野球審判の真実』（2020年）

プロ野球選手を志すも叶わず、異色の経緯を経て審判の道へ進み、パ・リーグの歴史を支えた名物審判員として、そのジャッジは多くのファンの記憶に残っている。

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