岡ノ谷一夫

岡ノ谷 一夫

日本の動物行動学者である岡ノ谷 一夫氏は、1959年7月16日に栃木県足利市で生まれました。現在は帝京大学の教授を務め、長年籍を置いた東京大学では名誉教授および客員教授の肩書を持っています。

経歴

栃木県立足利高等学校を卒業後、慶應義塾大学文学部で学びました。さらに学問を深めるため渡米し、メリーランド大学大学院で博士号を取得しています。帰国後は千葉大学で助教授として教鞭を執り、研究活動を展開しました。2004年には理化学研究所の脳科学総合研究センターに異動し、生物言語研究チームのリーダーに就任。ここでは、生物のコミュニケーションや言語に関する脳科学的なアプローチを主導しました。2008年からは、ERATO情動情報プロジェクトの総括を兼任し、情動（感情）に関する科学的研究プロジェクトを率いました。2010年からは東京大学総合文化研究科の教授として、多くの後進を育成し、自身の研究をさらに発展させました。そして、2022年4月からは、活躍の場を帝京大学先端総合研究機構に移し、現在に至ります。

研究活動

岡ノ谷氏の研究テーマは、主に「小鳥の歌」に端を発しています。鳴禽類と呼ばれる種類の鳥が見せる複雑な鳴き方、すなわち「歌」がどのように進化し、どのような脳の仕組みによって生み出されているのかを詳細に分析しています。この小鳥の歌の学習や構造の研究を通じて、人間言語の起源や発達のメカニズムに関する重要な示唆を得ようとする、極めて独創的なアプローチで知られています。近年では、研究対象を小鳥だけでなく、様々な動物に広げ、動物とヒトとの間の行動や認知能力を比較研究することで、言語がヒト特有のものなのか、また言語と密接に関連する感情はどのように発生し、進化したのかといった、生命科学や認知科学における根源的な問いに取り組んでいます。特に、ジュウシマツなどの鳥類を用いた実験は、言語学習の神経基盤を理解する上で重要な成果を上げています。

著作

専門分野に関する研究成果や知見を広く一般に伝えるため、多数の著作を出版しています。代表的なものには、小鳥の歌研究から言語起源に迫るアプローチを平易に解説した『小鳥の歌からヒトの言葉へ』（岩波科学ライブラリー）や、その後の研究成果も踏まえた新版『さえずり言語起源論』があります。また、子供向けに言葉の誕生の不思議を説いた『言葉はなぜ生まれたのか』、生物間の「つながり」を進化という視点から捉え直した『「つながり」の進化生物学』、そして心の進化に関するブックガイド『脳に心が読めるか? 心の進化を知るための90冊』などがあります。

共編著としては、自らも研究対象とする特異な社会性を持つ動物を描いた『ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係』（吉田重人氏と共著）、作家の小川洋子氏との対談を通じて言葉の誕生を科学と文学の両面から探る『言葉の誕生を科学する』、言語学、心理学、脳科学など多角的な視点から進化言語学の可能性を探った『進化言語学の構築』（藤田耕司氏と共編）、子供向けの百科事典シリーズの一冊として「ことばと心」について解説した『ことばと心』、平成という時代を本という切り口から読み解く共著『本棚から読む平成史』など、幅広いテーマで執筆・編集活動を行っています。

翻訳

海外の専門書や辞書の翻訳にも携わっており、鳥類の臨床医学に関する『バード・クリニック・プラクティス』や、心理学の広範な分野を網羅した『心理学辞典』の監訳・共編翻訳に貢献しています。

メディア出演

自身のユニークな研究内容や科学的な知見について、テレビ番組を通じて一般視聴者にも分かりやすく伝えています。これまでにNHK Eテレの科学系番組「又吉直樹のヘウレーカ!」（2018年）や、NHK BSプレミアムの「ヒューマニエンスQ」（2021年）などに出演し、研究テーマに関連する科学の面白さを紹介しています。

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