岡崎酒造

概要

岡崎酒造株式会社は、長野県上田市に蔵を構える日本酒メーカーです。主力銘柄である「信州亀齢（しんしゅうきれい）」の製造・販売を行っています。

沿革

岡崎酒造の歴史は古く、江戸時代初期の寛文5年（1665年）に「小堺屋」という屋号で創業したと伝えられています。当時の様子は、原町滝沢家の日記に「小堺屋平24石」との記録が残されており、創業時からある程度の規模で酒造りを営んでいたことがうかがえます。

蔵の歴史において特筆すべきは、12代目となる岡崎美都里氏の存在です。1973年に11代目の岡崎時子氏の三女として生まれた美都里氏は、家業を継ぐことになります。時子氏は長女が後を継ぐと考えていましたが、上の姉二人がそれぞれ希望する進路を選んだため、小学生の頃から美都里氏は自分が蔵を継ぐことを自然に意識するようになったと言います。「誰もやらないなら、私が継ぎます」と答えて跡を継ぐ決意を固めた美都里氏は、当時を振り返り「家に残れてラッキーとしか思いませんでした」と笑顔で語っています。

美都里氏はその後、東京農業大学の醸造学科に進学して酒造りの基礎を学びました。卒業後は大手酒販会社での勤務を経て実家に戻ります。大学での学びは経営者として蔵を継ぐためのものと考えており、当初は杜氏になるつもりはありませんでした。しかし、実家に戻った直後、それまで酒造りを担っていた当時71歳の杜氏が高齢を理由に退職を申し出ます。この状況に直面した美都里氏は、「やれる人がいないなら私がやろう」と決意し、先代杜氏から4年間の指導を受けた後、2003年に30歳で杜氏として独り立ちしました。

私生活では、28歳の時に東京農業大学時代の同級生で同じサークルに所属していた謙一氏と結婚しました。美都里氏は交際にあたり、「婿入りできない人とは付き合えない」と伝えたとされています。2011年には、当時番頭を務めていた従業員が引退したことを機に、夫の謙一氏も蔵に入りました。

謙一氏が蔵に入った2011年頃、岡崎酒造の経営状況は芳しくありませんでした。売上は低迷し、2014年頃の生産量はわずか30石ほどでした。謙一氏は当時の状況を「以前は、日本酒よりも土産物のほうがよく売れていたくらいなんです」と語り、酒質についても「雑味が強く、お世辞にも旨いと言える酒質ではなかった」と率直に評価しています。このままでは経営が立ち行かないと考えた謙一氏は、蔵の改革を決断します。

謙一氏は岩手県の南部美人で酒造りを学び、さらに日本酒アドバイザーである鈴木賢二氏のもとで指導を受けました。試行錯誤を重ね、初めて仕込んだ酒の出来は必ずしも良くありませんでしたが、水の濾過方法を見直すなど酒造りの工程を一から見直し、改善を続けました。また、酒を搾る際に使う袋を常に新品に交換したり、木製だった発酵槽をステンレス製に刷新するなど、生産設備の大胆な刷新も行いました。こうした美都里氏と謙一氏の二人三脚での改革努力が実を結び、2015年には関東信越国税局酒類鑑評会で吟醸酒部門の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げます。

この受賞をきっかけに、「信州亀齢」の名は広く知られるようになり、人気銘柄への道を駆け上がります。生産量は2016年には120石、そして2024年には500石ほどにまで増加し、経営は大きく改善されました。

酒造り

岡崎酒造が目指すのは、「甘くて軽やかで、香りを楽しめる酒。はじめの一杯に選ばれるようなフレッシュな酒」という、出品酒に匹敵する高い品質の酒質です。この目標を実現するため、種麹には出品酒にもよく用いられる菱六製の「白夜」を採用しています。また、長期間の低温発酵によってきれいな甘みを引き出すため、2015年と2018年には新たな冷蔵室を設置しました。冷蔵室は常に3～4℃の低温に保たれています。仕込み水には、地元の菅平水系の水を使用しています。

また、岡崎酒造は上田市内にある稲倉の棚田の保全活動にも積極的に関わっており、棚田で栽培された酒米「ひとごこち」を使用した日本酒づくりにも取り組むなど、地域との連携も大切にしています。

商品

現在の主力銘柄は「信州亀齢」です。かつては「亀齢」として販売されていましたが、広島県に同名の銘柄が存在したため、差別化を図る目的で「信州亀齢」と名称が変更されました。

過去には以下のような清酒を製造していました。

清酒「亀齢」
純米大吟醸酒・大吟醸酒・吟醸酒
本醸造酒（特撰・上撰）
純米酒（上撰・佳撰）
普通酒（佳撰）
原酒
しぼりたて生酒
その他の清酒
上撰・真田三代
上田城（本醸造上撰・佳撰）
にごり酒・信州小町
発芽玄米酒・双葉
発芽胚芽米酒・芽生（めい）

評価

「信州亀齢」は、その品質の高さから多くの酒販店や日本酒ファンから高い評価を受けています。酒販店の伊勢五本店で働く池田剛史氏は、「入荷しても即完売する」ほどの人気ぶりを評し、その理由を「日本酒初心者にも飲み慣れた人にも愛される、人懐っこい口当たり」にあると述べています。また、dancyuライターの佐々木香織氏は、その味わいについて「雑味のないクリアな味わい、ふわっと鼻に抜ける華やかな香り、しっかり甘いがくどくなく、やがて砂にしみ入る水のごとくすーっと消えゆくアフターが何ともしとやか」と表現し、その優雅な品質を讃えています。

受賞歴

岡崎酒造は、全国新酒鑑評会において金賞を複数回受賞するなど、その酒造技術が高く評価されています。

全国新酒鑑評会：平成14酒造年～29酒造年の間に複数回金賞を受賞しています（最終受賞は平成29年）。

こうした国内外での評価は、「信州亀齢」が多くの人々を魅了する高品質な日本酒であることを証明しています。

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