岡本鶴松

岡本鶴松（おかもと つるまつ）は、1882年2月7日に東京で生まれ、1945年7月10日に生涯を閉じた、明治後期から昭和前期にかけての多才な人物でした。彼はジャーナリスト、新聞記者、評論家、小説家、そして翻訳家として幅広い分野で活躍し、その足跡を日本の言論界に残しました。大阪朝日新聞社（現在の朝日新聞社）では外報部長という要職を務め、国際的な情報の発信にも尽力しました。九皐（きゅうこう）という号も持っていました。

岡本鶴松は、大阪・英和学舎（現在の立教大学）を卒業後、東京英語専修学校（これも立教大学の前身）で学びました。立教大学との縁は深く、彼の業績の中でも特に注目されるのは、トマス・ヒューズの『トム・ブラウンの学校生活』の翻訳です。この作品は、ハリー・ポッターシリーズにも影響を与えたとされる名作で、岡本鶴松は『英国学校生活』というタイトルで1903年（明治36年）に出版しました。

この翻訳本の出版は、彼自身の号を冠した九皐社から行われ、印刷は当時築地・明石町にあった立教学院活版部が担当しました。序文は、立教学院の総理であったヘンリー・セントジョージ・タッカーが寄稿するという、立教大学との強いつながりを示すものでした。

『トム・ブラウンの学校生活』の舞台は、ヒューズ自身が学んだラグビースクールであり、イギリスとアメリカで非常に人気のある作品でした。岡本鶴松による翻訳版は、日本でも明治時代の高校生に最も人気のある英語圏の教科書となり、多くの若者に影響を与えました。

大阪朝日新聞社に入社後は、外報部長として活躍する傍ら、小説家、評論家としてもその才能を発揮しました。1930年（昭和5年）には、母校である立教大学の新聞に「アメリカと倫敦（ロンドン）海軍條約」と題したコラムを寄稿するなど、幅広いテーマに関心を寄せ、積極的に情報発信を行っていました。


主な著作

『英国学校生活 : 一名・英国学生気質 前編』トマス・ヒューズ著 岡本鶴松（九皐）,村山具政訳 九皐社 1903年
『英国学校生活 : 一名・英国学生気質 後篇』トマス・ヒューズ著 岡本鶴松（九皐）,村山具政訳 九皐社 1903年,1904年
『英文少年』上田屋 1905年
『異國の華を尋ねて』福永書店 1926年
* 『新聞記者打明け話』合著 大阪朝日新聞社整理部編 世界社 1928年

岡本鶴松は、翻訳家として、ジャーナリストとして、そして知識人として、明治から昭和にかけての日本の社会に大きな足跡を残した人物です。

もう一度検索