岩尾エマはるか

岩尾エマはるか（いわお エマ はるか、1984年4月21日生まれ）は、日本の卓越したコンピュータ技術者であり、世界的なテクノロジー企業Googleにソフトウェアエンジニアとして勤務しています。彼女は特に、円周率（π）の値を前例のない桁数まで正確に計算する分野で知られ、2019年と2022年の二度にわたり、当時の世界記録を更新する偉業を成し遂げました。

岩尾氏が円周率の世界に深く魅了されたのは、12歳の頃のことでした。当時、円周率計算の記録保持者として名を馳せていた金田康正氏をはじめとする数学者たちの活動に触れる中で、彼らを強く意識し、自らの進むべき道に大きな影響を受けたといいます。高校時代は必ずしも数学が得意ではなかったため、当初は文系の学部への進学を考えていましたが、担任の先生からの助言もあり、筑波大学にて情報学類へと転向し、コンピュータサイエンスを専門に学ぶことを決意しました。大学では、当時スーパーコンピュータを用いた円周率計算で正確性の記録を持っていた高橋大介氏に師事するなど、最先端の計算技術に触れる機会を得ました。大学学部長表彰を受けた後、大学院システム情報工学研究科では、高性能なコンピュータシステムに関する研究に打ち込み、その成果を修士論文としてまとめました。

大学院修了後、岩尾氏はパナソニック、グリー、レッドハットといった国内外の企業でソフトウェアエンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。これらの企業で、システムの信頼性を高めるための専門職であるサイトリライアビリティエンジニアリング（SRE）の分野で貴重な経験を積みました。

2015年からはGoogleに入社し、クラウドデベロッパーアドボケイトとしての活動を開始します。当初は東京オフィスを拠点としていましたが、2019年にアメリカ合衆国のシアトルオフィスへ移籍しました。Google Cloud Platform (GCP) の開発者向けサポートや、このプラットフォーム上でアプリケーションを構築する開発者への技術的な支援が主な業務です。また、クラウドコンピューティング技術がより多くの人々に利用されるよう、分かりやすいオンライン講義を実施したり、学習教材を作成したりするなど、啓蒙活動にも積極的に取り組んでいます。

彼女の最も特筆すべき功績は、Googleの持つクラウドインフラストラクチャを活用した円周率計算の記録更新です。2019年3月14日の「円周率の日」に、岩尾氏は当時の世界記録であった22兆桁を大きく上回る、約31.4兆桁（正確には31,415,926,535,897桁）の円周率を計算したと発表しました。この計算のために処理されたデータ量は約170テラバイトに達し、これはアメリカ議会図書館の印刷物コレクション全体のデータ量に匹敵する膨大さです。計算には、円周率計算専用に開発されたマルチスレッドプログラム「y-cruncher」が用いられ、Google Cloud上に構築された25台の仮想マシンで並行して実行されました。計算の完了には121日間を要しましたが、この成果により、それまでの記録を9兆桁以上も更新しました。さらに、2022年には自身の持つ記録を再び塗り替え、100兆桁への到達を達成しています。

岩尾エマはるか氏は、円周率という数学上の難問に対する純粋な探求心と、最先端のクラウド技術を組み合わせることで、計算科学の新たな地平を切り開きました。彼女の先駆的な取り組みは、世界中の技術者や研究者にとって、大きな刺激となっています。

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