岩本栄之助

岩本栄之助：大阪の義侠の相場師、そして中央公会堂の恩人

岩本栄之助は、明治から大正時代を生きた大阪を代表する株式仲買人であり、大阪市中央公会堂建設の主要な寄付者として名高い人物です。1877年、大阪の両替商の家に生まれ、商業学校や外国語学校で学んだ彼は、日露戦争に従軍し、陸軍中尉として従軍経験も有していました。

帰国後、株式仲買人として活躍を始めます。1907年の株式市場大暴落では、自らの全財産を投じて市場を支え、多くの仲買人を救済したことで「義侠の相場師」と呼ばれ、世間の注目を集めました。

栄之助は、単なる商人ではありませんでした。彼は「学問せなあかん」を口癖とし、取引所の少年たちに教育の大切さを説き、私財を投じて塾を設立するなど、社会貢献にも熱心に取り組んでいました。この行動は、彼を「北浜の風雲児」という異名で呼ぶほどに人々の支持を得ました。

1909年には、渋沢栄一率いる渡米実業団に参加し、アメリカ合衆国を視察。そこで目にした富豪による公共事業への寄付に感銘を受け、帰国後、大きな決断を下します。1911年、父・栄蔵の死をきっかけに、自身の私財から100万円（現在の価値にして数十億円規模）を大阪市に寄付することを発表しました。

この巨額な寄付は、全国を驚かせ、大きな反響を呼びました。寄付金の使途は当初未定でしたが、最終的には市民の憩いの場となる中央公会堂建設に充てることになりました。栄之助は、建設にあたり、財団法人を設立し、建築界の大御所・辰野金吾を顧問に迎えました。公会堂の定礎式には、渋沢栄一も参加しています。

中央公会堂建設以外にも、栄之助は大阪株式取引所仲買人組合の委員長や大阪電灯株式会社（現在の関西電力の前身の一つ）の常務取締役を歴任するなど、財界でも重要な役割を担っていました。

しかし、栄之助の人生は順風満帆ではありませんでした。第一次世界大戦後の異常景気の中で、相場の読みを誤り、多額の損失を被ります。1916年、栄之助は自宅で自ら命を絶ちました。享年39歳。彼の死は、多くの人々に衝撃を与えました。

彼の遺志は、岩本商店の取締役だった北井亀次郎らによって引き継がれ、中央公会堂は1918年に竣工しました。現在、公会堂地下1階には「岩本記念室」が設置され、彼の銅像と遺品が展示されています。

岩本栄之助は、卓越したビジネスセンスと並外れた義侠心を持つ、複雑で魅力的な人物でした。彼の生涯は、成功と挫折、そして大きな社会貢献を象徴する物語として、今も語り継がれています。彼が残した中央公会堂は、大阪の象徴として、そして彼の功績を後世に伝える重要な遺産として、現在も人々に親しまれています。彼の業績を後世に伝えるため、複数の書籍が出版されています。それらの書籍は、彼の波乱に満ちた人生、そして彼の遺した財産である中央公会堂への想いを深く知ることができる貴重な資料となっています。

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