両替商

両替商とは

両替商は、異なる通貨を交換する業務を担う商人や商店のことです。歴史的に、国境を越えた貿易が盛んな地域では、外貨両替や金融業務を行う両替商が不可欠な存在でした。現代では、主に空港などで外貨両替を行う店舗や窓口を指します。

語源

日本語の「両替」は、一両の小判を丁銀や小玉銀、銭貨に換えたことに由来します。また、銀座で金地金と公鋳銀を交換する行為も「両替」と呼ばれていました。

両替商の歴史

ヨーロッパ

古代地中海世界ではフェニキア人が両替の役割を担い、続いて古代ギリシアのポリスで両替商が登場しました。ポリスごとに異なる硬貨が使用されたため、両替商が必要とされ、トラペザという机を用いて業務を行ったことから、トラペジーテースと呼ばれました。トラペジーテースは貨幣や貴金属の保管、貸付も行い、これが銀行家の起源となりました。アテナイでは、両替商や銀行家は主にメトイコイと呼ばれる外国人によって担われました。

ローマではエクイテス身分の者が両替商を経営し、地域取引のための両替を行いました。中世に入ると商業は一時衰退しましたが、東方からの貨幣流入と遠隔地商業の再建により、両替商の役割が再び大きくなりました。フランスでは、パリの両替商をグラン・ポン橋周辺に集め、それ以外の場所での営業を禁止しました。この橋は「両替橋」と呼ばれるようになりました。北イタリアの都市国家では独自貨幣が発行され、都市間の貨幣交換を行う両替商が生まれました。彼らは広場にバンコと呼ばれる台を設置して業務を行い、これが銀行（bank）の語源となりました。ジェノヴァ、ヴェネツィア、フィレンツェの両替商は、十字軍への援助を機に北ヨーロッパにも進出し、税の徴収や為替業務も行うようになりました。フッガー家やメディチ家は、両替商から銀行家へと発展した代表例です。大航海時代になると、金融の中心はアントウェルペン、アムステルダムを経てロンドンに移り、ロンドンが世界の金融の中心となりました。ヨーロッパでは聖マルコが両替商の守護聖人として崇敬されています。

イスラーム世界

イスラーム帝国の拡大に伴い、東西の中継貿易と地域内の交易が活発化しました。アッバース朝時代には、バグダート、バスラ、アレクサンドリアを結ぶ商業網が形成されました。ディーナール金貨やディルハム銀貨が用いられましたが、各地から様々な地金や秤量[[貨幣]]も流入しました。これらの通貨交換を行うために9世紀にはサッラーフと呼ばれる両替商が成立しました。サッラーフは秤量[[貨幣]]をまとめて封印し、一定の価値を持たせて流通させたり、手形を扱ったりしました。また、租税として集められた貨幣や地金を公式通貨に換金するジャフハズと呼ばれる御用業者も存在しました。

中国

中国では早くから銅銭による貨幣統一政策が取られていましたが、国家の分裂や銅銭不足により、金銀や絹が代用貨幣として用いられました。唐から宋にかけて、金銀鋪や兌房と呼ばれる両替商が成立しました。金銀鋪は金銀の鑑定や保管業務から両替・預金業務を行うようになり、宋代には飛銭や交子の発行も行いました。明代以降は銀錠の流通が広まり、銀錠と銅銭の交換を専門とする銭荘や銀楼が登場しました。

日本

江戸時代以前

日本では、室町時代に為替の前身である替銭や割符を扱う替銭屋や割符屋が存在しました。また、土倉と呼ばれる倉庫兼金融業者が活動し、戦国時代には金銀の精錬や鑑定を行う金屋や銀屋が現れました。これらの業者が、後に三貨制度の確立により両替の分野にも関わるようになりました。

江戸時代の両替屋

三貨制度の成立

徳川家康は、慶長6年（1601年）に金座と銀座を設立し、慶長小判と慶長丁銀の鋳造を命じました。慶長14年（1609年）には、「金一両＝銀五十匁＝永一貫文＝鐚四貫文」という三貨の御定相場が定められました。その後、「金一両＝銀六十匁＝銭四貫文」と改訂されましたが、一般の商取引では変動相場が採用されていました。寛永13年（1636年）には、寛永通寳の本格的な鋳造が始まり、三貨制度（金、銀、銭）が確立しました。この三種類の通貨が流通したことで、両替商が重要な役割を果たすようになりました。両替商は、小判や丁銀を銭に換える際に手数料を徴収しました。少額貨幣から高額貨幣への両替手数料は「切賃」、高額貨幣から少額貨幣への両替手数料は「逆打」と呼ばれていました。

両替屋の株組織

両替屋は、本両替と脇両替に分化しました。本両替は金銀両替、為替、預金、貸付、手形発行など信用取引を仲介しました。脇両替は銭貨の売買を専門に行いました。本両替は江戸では本両替仲間、大坂では十人両替仲間を形成し、相場立会いなどで協定しました。両替屋は大坂に本店を置くことが多く、江戸は支店が多く、京都はその中間的な性格を持っていました。本両替は大名や有力商人が利用し、町人は脇両替を利用しました。銭屋の数は増加し、幕府公認の株仲間として成長しました。

# 江戸の本両替

江戸では、金銀両替や金融を行う本両替、小判、丁銀、銭貨の両替を行う三組両替、銭貨の売買を行う番組両替に分かれていました。三組両替と番組両替では、酒屋や質屋を兼業する者もいました。

# 大坂の十人両替

大坂で最初に両替屋を創業したのは天王寺屋五兵衛とされています。その後、小橋屋浄徳、鍵屋六兵衛らが加わり、寛文2年（1662年）に3名が幕府御用を務めるようになりました。寛文10年（1670年）には10人となり、十人両替仲間を形成しました。十人両替は、幕府の経済政策に協力し、両替屋仲間の監督機関として機能し、相場立会いなどの協定権を有しました。大口取引は、手形による信用取引が不可欠となり、それに伴う不正も発生しました。大坂の脇両替は、十人両替とは独立した組織を形成していました。

# 初期の大坂の十人両替

初期の十人両替には、天王寺屋五兵衛、新屋九右衛門、鍵屋六兵衛、坂本屋善右衛門、天王寺屋作兵衛、新屋杢右衛門、泉屋兵兵衛、誉田屋孫右衛門、鴻池善右衛門、助松屋利兵衛らがいました。その後も幕府が選任しましたが、職務が煩雑なため忌避されました。

# 掛屋

諸藩の商品調達や年貢米売却代金の管理、国許や江戸屋敷への送金、資金貸付を行う掛屋は、大手両替屋から任命されることが多くありました。

両替天秤

丁銀や小玉銀は、秤量によって価値が定められるため、取引の度に秤量が必要でした。小口取引には銀秤、大口取引には両替天秤が用いられました。両替天秤は、京都の秤座で製作されたもののみ使用が許可され、分銅は後藤四郎兵衛家のみ製作が許可されていました。これにより、量目の単位としての匁は均質性が維持されました。

銀行

現在の日本の銀行の多くは、江戸時代の両替商が前身です。銀行の地図記号は、両替商で用いられた分銅の形に由来します。

現在の両替商

現代では、主に空港などで外貨両替を行う窓口や店舗を両替商と呼びます。都市や観光地にも両替商が多く存在します。国によっては、入国時に公認両替商で両替を行い、両替証明書を発行してもらわないと、出国時に余剰貨幣を再両替できない場合があります。日本では、銀行や空港などで外貨両替が行われています。以前は外国[[為替]]公認銀行のみが外国[[為替]]や外貨両替を扱えましたが、1998年の法改正により、一般企業も扱えるようになりました。

出典・脚注

参考文献

黒田明伸『貨幣システムの世界史』（増補新版）岩波書店、2014年。

関連項目

貨幣史
* 貨幣学

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