岩熊井堰

岩熊井堰について

岩熊井堰（いわぐまいぜき）は、宮崎県延岡市にある五ヶ瀬川から農業用水を引くために江戸時代中期に作られた井堰と、それに続く用水路です。この井堰は、当時の延岡藩にとって、農業生産を大きく向上させるための重要な事業でした。

建設の背景

江戸時代中期、日向延岡藩の出喜多村（現在の延岡市出北）は、「出喜多の雲雀野」と呼ばれる荒れ地でした。村人たちは、藩に対して農業用水の確保を何度も請願しました。その結果、家老の藤江監物がこの問題を取り上げ、郡奉行の江尻喜多右衛門に命じて井堰の建設が始まりました。しかし、工事は度重なる風水害や疫病の流行によって中断を余儀なくされました。

さらに、工事費用が藩の財政を圧迫した責任を問われた藤江監物は投獄され、獄死するという悲劇も起こりました。しかし、江尻喜多右衛門らは工事を諦めず、着工から10年後の享保19年（1734年）に井堰は完成しました。

岩熊井堰建設の歴史

当初、延岡藩では、荒れた土地を灌漑することで田畑を広げ、米などの収穫量を増やすことを目指していました。藩主の三浦明徳の時代に工事が始まりましたが、飢饉や風水害、藩の財政難によって中断してしまいました。その後、藩主が牧野家に代わると、恒富村字出喜多村の庄屋たちが粘り強く請願を続け、家老の藤江監物らが藩の首脳部を説得し、郡奉行の江尻喜多右衛門に命じて、享保9年（1724年）に工事が再開されました。

藤江監物は、自ら全国各地の治水灌漑の先達に師事し、土木技術や資材調達の方法を学びました。特に水戸藩の伴部寒斉や岡山藩の津田左源太との交流は、岩熊井堰の建設に大きな影響を与えたと言われています。

しかし、工事は順調には進まず、享保9年8月には暴風雨による洪水で井堰や用水路、資材などが破損し、ほとんどが流失する被害を受けました。また、疫病の流行も重なり、工事は一時中断を余儀なくされました。翌年の享保10年（1725年）に工事は再開されましたが、その後も風水害による流失を繰り返し、藩の財政を圧迫しました。藩士の俸給が一部召し上げられるようになると、藩内でも井堰建設に対する不満が高まりました。

ついには、筆頭家老牧野斉宮らによる讒言によって、家老藤江監物が3人の息子とともに入獄し、獄死するという事件が起こりました。

完成とその後

責任者となった江尻喜多右衛門は、藩内の反対論者を説得し、工事を続行しました。そして、着工から10年の歳月を経て、享保19年（1734年）に岩熊井堰と出北村までの用水路が完成しました。井堰完成前に150石だった出北村の収穫高は、755石まで増加したと言われています。

その後、昭和8年（1933年）と昭和46年（1971年）には、井堰のコンクリート化や用水路の延長など、大規模な改修が行われました。現在も、岩熊井堰は延岡市域への農業用水供給に重要な役割を果たしています。

関連人物

藤江監物：岩熊井堰建設の中心人物。家老として工事を推進したが、悲劇的な最期を遂げました。
牧野貞通：当時の延岡藩主。
江尻喜多右衛門：郡奉行として、井堰の完成に尽力しました。

参考資料

城雪穂『藤江監物私譜』鉱脈社、1985年
宮崎日日新聞社『宮崎県大百科事典』宮崎日々新聞社、1983年
松田仙峡『延岡先賢伝』藤屋印刷所、1955年

外部リンク

岩熊井堰 - 疎水名鑑
藤江監物 - 延岡観光協会
宮崎県 延岡の岩熊井堰を拓いた藤江監物 - 農林水産省
藤江監物父子墓所
藤江監物の墓と牢跡
藤江監物事件

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