岬 (小説)

小説『岬』について

中上健次が1976年に発表した中編小説『岬』は、日本文学における重要な作品の一つとされています。本作は、同じ年に発表された短編集『岬』に収録され、さらに1975年10月号の『文学界』で初めて紹介されました。この作品は第74回芥川賞を受賞し、中上健次の名を広めるきっかけとなりました。

『岬』は、著者の独自の視点で描かれる複雑な血縁関係や人間の感情の葛藤を通じて、当時の社会に存在するさまざまな問題に光を当てています。本作は、続編として『枯木灘』や『地の果て 至上の時』が執筆されており、これらは三部作として位置付けられています。現在では、文藝春秋から文庫版が発売されています。

あらすじ

物語の主人公は竹原秋幸という青年で、母親と再婚した義父の家で暮らしています。秋幸は、母が前の夫との間にもうけた異父姉、美恵の夫が経営する土方の組で働いており、その異父姉の旦那、実弘との複雑な関係が物語の中心にあります。さて、秋幸の実父は、母が義父と再婚する間に付き合っている間に生まれた人物で、彼の存在が秋幸に重くのしかかります。

唯一の兄である異父兄は、子供の頃に自ら命を絶っており、その自殺の背景には、母に棄てられたという思いが深く関わっています。秋幸は、異父兄の姿を繰り返し思い出しつつ、重苦しい血縁のしがらみから逃れたく願い、土方の現場で黙々と働く日々を送っています。

そんな中、事件が起きます。秋幸の同僚である安雄が、逆恨みにより実弘の妹、光子とその兄古市を刺殺するという凄惨な出来事が引き起こされ、これにより美恵は精神を病んでしまいます。日常生活が暴力によって崩壊し、秋幸は母や実父に対して厳しい気持ちを抱くようになります。彼は、「戻してくれ」と叫びたくなるほど、異父兄や発狂した姉、美恵を求めます。

秋幸は街を彷徨う中で、実父に関する秘密を胸に抱えつつ新地の曖昧屋の前に立ちます。そこで、実父に生まれた異母妹が娼婦として働いていることを知り、彼は思わず彼女との不適切な関係を結ぶことに決めます。報復心からの行動でありながら、交わりの中で妹への愛情が芽生えてくるという、複雑な心情が描かれています。

評価と影響

『岬』は、発表当初から多くの文芸批評家に称賛され、特に文芸批評家の江藤淳から激賞されました。文藝春秋の単行本には、著者の独自な表現と、人間の相貌に対する深い洞察が評価される一文が引用されています。この作品は、フリージャズの運動から影響を受けたという独特な文章のスタイルで書かれており、一般的な日本語の文章とは異なる点が多く見受けられます。

結末や展開が緻密に構成され、キャラクターたちの愛憎劇が織り交ぜられた本作は、文学作品としての価値が高く、日本文学の中で特別な位置を占めているのです。文学ファンにとって、次世代の作家たちへの大きな影響を残している『岬』は、ぜひ一度手に取ってみたい作品です。

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