島比呂志

島比呂志

島比呂志（しま ひろし、1918年7月23日 - 2003年3月22日）は、昭和から平成にかけて活躍した日本の小説家です。本名は岸上薫。
ハンセン病を発症し、療養所での生活を送りながら、人間の尊厳や社会のあり方を問いかける作品を数多く発表しました。

生涯

1918年、香川県観音寺市に生まれました。東京高等農林学校獣医学科を卒業後、満洲の研究所勤務や母校での助教授を経て、1947年にハンセン病を発病し、国立療養所に入所。
療養所生活の中で文筆活動を始め、同人雑誌『火山地帯』を主宰するなど、積極的に創作活動を行いました。

1990年代には、ハンセン病患者に対する差別や偏見をなくすための運動に深く関わりました。

1995年、「患者の権利法をつくる会」事務局長池永満弁護士のもとに手紙を送ったことがきっかけとなり、らい予防法に対する国家賠償訴訟につながりました。
1998年には、「ハンセン病訴訟・告訴宣言」を発表し、社会に大きな衝撃を与えました。

1999年に社会復帰を果たし、2003年、多臓器不全のため84歳で逝去。

作品の特徴とテーマ

島の作品は、ハンセン病療養所での生活体験に基づいて、人間の尊厳、病と差別、隔離政策といった重いテーマを扱っています。

代表作

林檎: ハンセン病療養所で結婚した夫婦の物語。結核を患った妻が最期に林檎を欲しがる姿を通して、人間の愛情と死を描いています。
奇妙な国: 療養所を小さな国に見立て、その奇妙なありさまを風刺的に描いた作品。国家や社会の欺瞞を痛烈に批判しています。
永田俊作: ビルマ戦線における人肉食とハンセン病療養所内の生活という、二つの極限状態を組み合わせた小説。人間の倫理観や尊厳が崩壊していく様を描いています。
カロの位置: 断種手術を受けた夫婦が飼っている猫を子供のように可愛がる姿を通して、子供を持つことができない夫婦の悲しみを描いています。
豊満中尉: 元陸軍中尉の男がハンセン病療養所に入り、軍人としての生きがいを再び見出す物語。人間のアイデンティティや生きがいについて考えさせられます。
生存宣言: 長い間逃亡者として療養所内に暮らしていた男が、自らが主宰する同人雑誌の出版を機に、再び社会とつながりを取り戻す物語。人間の再生と希望を描いています。
海の沙: 戦争中の飢餓、戦後の文学熱、プロミン治療、らい予防法改正反対運動など、激動の時代を同志として生きてきた人々の姿を描いた作品。

評価と影響

島比呂志は、ハンセン病文学の分野において、その文学性と社会的な影響力の大きさから、高く評価されています。
彼の作品は、ハンセン病問題に対する社会の関心を高め、らい予防法改正運動を後押しする原動力となりました。

著書

生きてあれば(1957)
奇妙な国(1980)
片居からの解放　ハンセン病療養所からのメッセージ(1985)
海の沙(1986)
来者の声　続・ハンセン病療養所からのメッセージ(1988)
らい予防法の改正を(1991)
「らい予防法」と患者の人権(1993)
生存宣言(1996)
国の責任 今なお、生きつづけるらい予防法(1998)
* ハンセン病療養所から50年目の社会へ(2001)

島比呂志の作品は、ハンセン病という病を通して、人間の尊厳や社会のあり方を深く問いかけるとともに、希望の光を示しています。
彼の作品は、これからも多くの人々に読み継がれ、語り継がれていくことでしょう。

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