崩れる脳を抱きしめて

『崩れる脳を抱きしめて』は、知念実希人による日本の医療・恋愛ミステリー小説です。イラストレーターげみによる印象的な表紙が目を引きます。2017年9月15日に実業之日本社から刊行され、2018年には広島本大賞、沖縄書店大賞を受賞、本屋大賞にもランクインするなど、高い評価を得ています。

物語は、広島の病院から神奈川県葉山の富裕層向け病院へ地域医療の実習に来た研修医、碓氷蒼馬が主人公です。彼はそこで、自らの脳に爆弾を抱えていると語る女性、弓狩環と出会います。環は、過去の出来事から外の世界に強い恐怖心を抱き、病院から出ることを極端に恐れています。一方、碓氷は多額の借金に苦しんでおり、二人はそれぞれに深い悩みを抱えていました。

回診後の時間を使い、環の病室で勉強することを院長から許可された碓氷は、環と親交を深めていきます。しかし、環が遺産の一部を贈りたいと申し出ると、碓氷はこれを固辞し、一時的に二人の関係は疎遠になります。その後、同僚の指摘で和解した二人は、共に病院の外へも出かけるようになります。碓氷は、環に自身の過去を語り、母親の誕生日を祝うために実家に帰省します。その際に父親の失踪の真相を突き止め、家族宛に遺されていた物を環に伝えます。

葉山の病院での実習を終え、広島の病院に戻った碓氷は、環への想いを断ち切れず手紙を送ります。しかし、返信は無く、意を決して葉山へ向かおうとした矢先、弁護士の箕輪が訪ねてきます。そこで環の死を知らされ、さらに彼女が葉山の病院ではなく横浜で亡くなったことを知ります。環の死に疑問を抱いた碓氷は、真相を突き止めるため葉山の病院へ向かいます。

しかし、病院のスタッフや他の入院患者は、碓氷が環を診察した事実はないと証言します。環の病室は数ヶ月も空室であり、環と親しかったという証拠もありません。碓氷は、まるで自分が精神的な病で、環という患者を脳内で作り出したのではないか、とまで疑念を抱くようになります。カルテにも碓氷の記録はなく、最後の望みを託し環の病室を細かく調べると、環が残した絵を発見します。

その後、碓氷は環が亡くなった横浜へ行き、情報を集めます。そこで環が新しい遺言書を作成していたことを知り、遺言書を偶然見つけますが、環の命を狙っていた箕輪に襲撃されます。なんとか箕輪を退けた碓氷は、遺言書から環に関する全ては解決したかに思えました。しかし、環の病状や、共に過ごした時の違和感から、医学部時代から憧れていた脳外科医の道を諦め、再度葉山の病院へ向かいます。保管されていたカルテを読み、真相を院長に問い詰め、ある病院へと向かうのでした。

物語の舞台となる病院は以下の通りです。
葉山の岬病院：神奈川県葉山町にある富裕層向けの療養病院。終末医療も行い、患者の希望を最大限に尊重するという方針を持っています。電子カルテではなく、手書きのカルテを使用している点が特徴です。
広島中央総合病院：広島市にある碓氷が所属する総合病院です。多くの研修医が所属しています。
みなとみらい臨海総合病院：横浜市にある病院で、環が葉山の病院へ入院する前に治療を受けていました。
丘の上病院：長野県にある小さな病院で、物語の重要な伏線として登場します。

物語を彩る主な登場人物は以下の通りです。
碓氷蒼馬：主人公の研修医。多額の借金を抱えながらも、真実を追求する強い意志を持っています。
弓狩環：脳腫瘍を患う入院患者。自身の遺産を狙う人物に命を狙われています。
朝霧由：環の親友で、交通事故の後遺症で入院しています。
梅沢ハナ：葉山の病院に入院していた高齢の女性。入院中に亡くなります。
内村吾平：葉山の病院に入院している患者。病院や院長を信用しないよう碓氷に警告します。
院長：葉山の病院の院長で、物語のキーパーソンの一人です。
看護師長：葉山の病院の看護師長。
榎本冴子：碓氷の元恋人で、同じ病院で研修医をしています。
箕輪章太：環の遺産を狙う弁護士。
牧島次郎：環が新しい遺言書を作成した法律事務所の弁護士。
* 南部昌樹：環がみなとみらい臨海総合病院に入院していた時の担当医。

本作は、オーディオブック版も配信されており、金本涼輔、渕上舞など豪華声優陣が参加しています。

知念実希人による緻密な構成と、医療現場のリアリティを盛り込んだ本作は、読者を最後まで飽きさせない魅力的な作品です。

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