嵐雛助 (10代目)

十代目 嵐 雛助（あらし ひなすけ）

昭和の歌舞伎界において、個性豊かな演技で観客を魅了した名優、十代目 嵐 雛助（1913年 - 1986年）。本名を今井 正男といい、吉田屋の屋号を掲げました。定紋は橘、替紋は梅鉢を使用し、俳名には眠獅と号しました。大正2年（1913年）10月4日に東京で生を受け、昭和61年（1986年）1月29日にその生涯を終えています。

東京出身である雛助は、尋常小学校を卒業後、歌舞伎の道を志し、当時名優として知られた四代目 中村もしほの門を叩きました。厳格な師の薫陶を受けながら、役者としての基礎を固めていきました。大正9年（1920年）2月、若干6歳にして、東京の市村座で初舞台を踏みます。この時の演目は『御所五郎蔵』で、可愛らしい禿（かむろ）の役を勤め、中村蝶太郎という芸名を名乗りました。幼くして舞台に立った彼は、早くからその才能の片鱗を見せていたと言えるでしょう。

昭和16年（1941年）には、活躍の場を東京から関西歌舞伎へと移しました。当時の関西歌舞伎は、伝統と革新が交錯する活気あふれる世界であり、彼はその中で独自の芸を磨いていきます。そして、昭和18年（1943年）2月、彼にとって大きな節目となる十代目嵐雛助の襲名を果たしました。襲名披露興行では、『絵本太功記・十段目』の重要な女方である初菊や、美しい舞踊『梅ヶ枝』などを演じ、観客に新たな嵐雛助の誕生を印象づけました。

十代目嵐雛助は、特に女方として活躍しました。彼の芸は、役柄の内面を深く掘り下げ、情感豊かに表現することに特徴がありました。その中でも、歌舞伎十八番の一つである『仮名手本忠臣蔵』に登場する顔世御前（かおよごぜん）は、彼の当たり役として特に有名です。顔世御前は、高家筆頭・吉良上野介の妻であり、物語の発端となる重要な役柄です。雛助は、顔世御前の気品と悲劇性を巧みに演じ分け、観る者を惹きつけました。他にも、様々な時代物や世話物の女方を勤め、その存在感を示しました。

長年にわたる舞台での功績は高く評価され、昭和33年（1958年）には、大阪府民劇場奨励賞を受賞しました。これは、関西歌舞伎における彼の貢献と、その卓越した演技力が高く評価された証と言えるでしょう。

昭和期の関西歌舞伎を支えた重鎮の一人として、十代目嵐雛助は後世に多大な影響を与えました。その芸は、記録や人々の記憶の中に今も生き続けています。彼の演じた顔世御前をはじめとする役々は、多くの歌舞伎ファンに愛され続けています。

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