嶋浩一郎

嶋 浩一郎（しま こういちろう）

嶋 浩一郎氏は、1968年11月2日生まれの日本のクリエイティブディレクターであり、株式会社博報堂ケトルの共同CEOを務めています。広告業界を基盤としながらも、出版、メディア、書店経営など、多岐にわたる分野でその手腕を発揮し、既存の枠に捉われないユニークな活動を展開しています。上智大学法学部法律学科を卒業後、広告の世界へと進みました。

キャリアと編集活動

1993年に博報堂に入社した嶋氏は、企業の広報や情報戦略を担う部門でキャリアをスタートさせました。その後、2001年には朝日新聞社へ出向し、スターバックスなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクターとして、新しいメディアのあり方を模索しました。この経験は、彼の後の活動に大きな影響を与えました。特に、2002年から2004年にかけて博報堂が発行する雑誌『広告』の編集長を務めたことは、編集者としての視点やスキルを確立する上で重要な期間でした。この時期に培われた知見は、彼のクリエイティブワークの根幹をなしています。

「本屋大賞」の企画と設立

2004年には、日本の出版文化に新たな風を吹き込んだ「本屋大賞」の企画・創設に中心的に携わりました。これは、プロの書店員が自らの手で売りたい本を選ぶという画期的なコンセプトで、読者やメディアから大きな注目を集めました。嶋氏はNPO本屋大賞実行委員会の理事も務め、この賞の継続的な発展に貢献しています。

博報堂ケトルの設立

2006年、嶋氏は博報堂内に、既存の広告会社の常識にとらわれない発想で課題解決を目指すクリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」を設立しました。共同CEOとして、「やかん（ケトル）」のように様々なアイデアが沸騰する場所を標榜し、広告キャンペーンの企画立案にとどまらず、メディア開発、コンテンツ制作、プロダクトデザインなど、幅広い領域で革新的なプロジェクトを推進しています。

多様な活動分野

嶋氏の活動は、博報堂ケトルでの仕事以外にも多岐にわたります。例えば、NUMABOOKS代表の内沼晋太郎氏と共に、東京・下北沢に個性的な書店「本屋B&B（Book & Beer）」を共同で経営しています。本とお酒、そして様々なイベントを組み合わせたこの書店は、単なる販売空間ではない、人が集まり交流する文化的な拠点として高い評価を得ており、2015年にはグッドデザイン賞を受賞しました。また、クリエイティブディレクターとして、週刊少年サンデーと週刊少年マガジンの50周年記念コラボレーション企画、KDDI、伊藤忠商事の「MOTTAINAI」キャンペーンなど、社会的なメッセージ性を持つものからユニークな視点のものまで、数多くの広告キャンペーンを手掛けています。さらに、カルチャー誌『ケトル』や、地域の経済や文化を掘り下げるウェブメディア『赤坂経済新聞』で編集長を務めるなど、メディア運営にも深く関与しています。

主な著書・編著書

自身の経験や思考をまとめた著書も複数刊行しています。クリエイティブな思考法や企画術、編集の視点など、幅広いテーマで執筆しています。

『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』（2007年、ディスカヴァー・トゥエンティワン）
『企画力』（2009年、翔泳社）
『人が動くものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』（2010年、誠文堂新光社）
『このツイートは覚えておかなくちゃ。』（2010年、講談社）
『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』（2013年、祥伝社）
『欲望する「ことば」 「社会記号」とマーケティング』（松井剛と共著）（2017年、集英社新書）
* 編著書に『CHILDLENS』があります。

嶋浩一郎氏は、広告、出版、メディア、リテールといった境界を越え、「編集」という共通項を通じて新しい価値や文化的な体験を創造し続ける、現代日本を代表するクリエイターの一人です。その活動は、アイデアの力とコミュニケーションの可能性を常に探求し続けています。

もう一度検索