川嶋孝彦

川嶋孝彦：日本の統計制度改革に挑んだ官僚

川嶋孝彦(1897-1958)は、日本の統計制度の近代化に生涯を捧げた官僚です。内閣統計局長として、太平洋戦争前後の混乱期において、日本の統計システムの抜本的な改革を提言し、戦後の統計制度改革の礎を築きました。その功績は、現代日本の統計行政に今もなお影響を与えています。

生涯と経歴

1897年、富山県富山市に生まれました。東京帝国大学法学部政治学科卒業後、1923年に内務省に入省。警察部警部や地方事務官として各地で勤務した後、1931年には内閣書記官に任命されました。その後、内閣官房総務課長、内閣統計局人口課長を経て、1939年には内閣統計局長に就任します。

統計制度改革への取り組み

川嶋は、ソ連、ドイツ、アメリカなどの先進国の統計制度を研究し、日本の統計制度の遅れを痛感しました。日本の統計調査は各省庁がバラバラに進めており、全体像を把握できない、非効率的な状態にあったのです。

この問題を解決するため、1940年には近衛文麿首相に「統計制度刷新に関する意見書」を提出。これは、中央集権的な統計システムを構築し、各省庁の統計調査を統制、監査するという、当時としては画期的な内容でした。ソ連の統計制度を参考に、強力な中央機関による統計情報の管理・分析体制を目指したのです。

しかし、この意見書は、官僚組織の抵抗や戦争の激化により実現には至りませんでした。1942年には東條英機首相にも同様の意見書を提出しますが、やはり受け入れられませんでした。

終戦後、統計制度改革の必要性がより一層高まる中、川嶋は再び行動を起こします。1945年には「我国統計機能充実整備案」を、翌年には「統計制度改革案」を政府とGHQに提出。これらの働きかけが功を奏し、1946年には内閣に「統計制度の改革に関する委員会」が設置されました。

しかし、委員会での審議では、各省庁からの反対意見が強く、川嶋が提唱した中央集権型の統計制度は採用されず、アメリカ型の分散主義の統計制度が採用されることとなりました。1947年、川嶋は内閣統計局長を辞任します。

戦後の活動と晩年

内閣統計局長退任後も、川嶋は参議院人事委員会専門員、国会図書館専門調査員などを務め、統計行政への貢献を続けました。1958年、肺癌のため死去しました。

皇室とのつながり

川嶋孝彦は、秋篠宮文仁親王妃紀子の祖父にあたります。このことは、彼の社会的地位の高さと、その影響力の大きさを示しています。

まとめ

川嶋孝彦は、戦前・戦後を通じて日本の統計制度改革に尽力した官僚でした。彼の提言は、必ずしも全て実現したわけではありませんが、現代日本の統計行政の基礎を築いたことは間違いありません。彼の生涯と業績は、日本の統計史において重要な位置を占めています。彼の努力は、今日の統計社会の礎を築き、私たちの生活を支えています。 彼の功績は、単なる統計官僚のそれにとどまらず、国家の政策決定に質の高い統計情報を提供しようとした、真摯な官僚像を示しています。その功績は、現代においても高く評価されるべきでしょう。

参考文献

人事興信録 (複数版)
森博美『統計制度と統計法規』
森博美『21世紀の統計科学I：社会・経済の統計科学』
伊藤廣一『統計歴史散歩』
島村史郎『統計制度論』
島村史郎『日本統計史群像』
* 川島孝彦と中央統計庁構想（森博美）法政大学日本統計研究所『研究所報』

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