官房

官房とは

官房（かんぼう、英語: Secretariat）は、日本の行政機関において、各府・省・庁および会計検査院に設置される内部部局の一つです。組織の管理、内部部局間の連携を担う重要な役割を果たしており、内閣に置かれる内閣官房も広義の官房に含まれます。

概要

官房は、各府省庁における組織運営の中枢を担い、総務局に相当する機能を持つ筆頭部局です。大臣官房の長は大臣官房長または単に官房長と呼ばれます。内閣に設置される内閣官房は、大臣官房とは異なり、その責任者は内閣官房長官です。英語ではMinister's SecretariatまたはSecretariat of the Ministerと訳されます。

日本の行政組織における官房の位置

官房は、いずれの行政機関においても内部部局の筆頭に位置づけられ、組織運営の中核を担います。具体的には、秘書、文書、法制、総務、人事、予算、会計、企画、広報、統計など、行政組織の内部管理と行政事務の総合調整を行います。

官房には、その所掌事務を分担する複数の課が置かれています。特に規模の大きい官房では、人事、文書、会計の3つをそれぞれ担当する「官房三課」が設置され、官房の中核をなしています。

現在、官房は内閣府および各省には必ず設置され、大臣官房と称されます。一方、内閣府および各省の外局である庁や行政委員会では、必要に応じて設置され、その場合は長官官房と呼ばれます。官房を置かない外局では、局制や部制を敷いている場合、官房に相当する事務を所掌する局や部が筆頭に位置づけられます。

官房の長としては、局長級の幹部職員が任命される官房長がありますが、外局には官房長が存在しない場合もあります。また、官房を除く各局、各部の筆頭課は、各局における人事・文書・会計などの総括管理を行い、各局における官房の機能を担います。実際の行政事務を掌る各局、各課は「原局」「原課」と称されます。

官房と原課からなる行政組織の編成原理は、国の行政機関だけでなく、国会や裁判所、地方公共団体などの公的機関にも見られます。これらの機関では、官房という名称は用いられないものの、同様の業務を行う部署が存在し、「官房系業務」と呼ばれることがあります。

所掌事務

大臣官房（長官官房）の所掌事務は、各府省の組織令に基づいて定められていますが、共通する主なものは以下の通りです。

機密に関すること
大臣（長官）の官印及び省（庁）印の保管
職員の人事、任免、給与、懲戒、服務
所掌事務に関する総合調整
法令案その他の公文書類の審査
国会との連絡
公文書類の接受、発送、編集及び保存
広報
保有する情報の公開
機構及び定員
行政の考査
経費及び収入の予算、決算及び会計
国有財産及び物品の管理
職員の福利厚生
政策の評価
他の内部部局の所掌に属しないもの

歴史

官房制度は、絶対君主制期のヨーロッパにおける官僚制に起源を持つとされています。日本語の官房という言葉は、ドイツの領邦国家において君主の側近が執務した部屋を指す「Kammer」という言葉の訳語であり、もともとは領邦の行政に関する機密を処理する君主直轄の行政機構を指していました。

プロイセンの官僚制をモデルとして導入された明治期の日本では、内閣制のもとで機密を扱う書記局に庶務、会計を行う諸部門が統合され、各省の大臣に直属して行政を管理する部門を官房と称するようになりました。

官房の制度は戦後の行政組織改革でもほとんど改変されることなく存続しており、近年では、行政機関におけるトップの政策機能強化のため、行政機関の総合調整機能を果たす部署として、その役割が再活性化されています。

大臣官房等一覧

以下に、大臣官房（長官官房）が設置されている主な行政機関を列挙します。

内閣府大臣官房
総務省大臣官房
法務省大臣官房
外務省大臣官房
財務省大臣官房
文部科学省大臣官房
厚生労働省大臣官房
農林水産省大臣官房
経済産業省大臣官房
国土交通省大臣官房
環境省大臣官房
防衛省大臣官房
警察庁長官官房
こども家庭庁長官官房
公正取引委員会事務総局官房（官房長不置）
宮内[[庁]]長官官房（官房長不置）
国税[[庁]]長官官房（官房長不置）
資源エネルギー庁長官官房（官房長不置）
中小企業庁長官官房（官房長不置）
防衛装備庁長官官房（官房長不置）
会計検査院事務総長官房（官房長不置）
内閣法制局長官総務室（官房はない）

官房長

行政庁においては、局・部・課にその責任者たる長を置くことが法律で義務づけられていますが、官房については必ずしも官房長を置く必要はありません。ただし、実際には中央省[[庁再編]]後の府省では、全て官房長が置かれています。

官房三課長

大臣（長官）官房は筆頭格部局であるため、秘書（人事）・総務（文書）・会計の3つの課（いわゆる官房三課）の課長は、本省（本庁）課長の中でも別格の扱いを受けます。官房三課長、各局筆頭課長の経歴は、最高幹部への昇進の有力な要素となります。

法律

事務次官（または庁の次長、警察庁は長官）と官房三課長などの間に官房長を置いても中二階的なものになることが想定されるため、内閣府設置法や国家行政組織法では官房長の設置を各府省庁の任意とし、設置する場合は政令で個別に規定することとされています。

庁

庁の中には、長官官房を置きながら官房長を置かない例（国税[[庁]]など）もあります。この場合、庁の次長が直接監督を行います。

官房の設置・不設置

内閣府本府と各省本省には大臣官房が必置ですが、庁の場合は任意設置であり、長官官房を置く庁もあれば総務部など代わりの部局とする庁もあります。

不設置の例

長官官房自体を置かない例としては、以下のような機関があります。

金融庁（総合政策局）
消防庁（官房的な役割の課は庁直属課として設置）
公安調査[[庁]]・海上保安[[庁]]（総務部）
林野庁・水産庁（林政部・漁政部など筆頭部局が担当）

宮内[[庁]]および警察庁

宮内[[庁]]は内閣府設置法上の外局ではありませんが、長官官房（官房長不置、官房審議官配置）があります。警察庁も国家行政組織法上の外局ではありませんが、長官官房および官房長が置かれています。

行政委員会

行政委員会のうち、公正取引委員会には事務総局官房（官房長不置）が置かれています。人事院では事務総長直属の総務課・人事課・会計課などを「官房部局」と総称しています。また、内閣から独立した憲法機関である会計検査院には、事務総長官房（官房長不置、総括審議官配置）が設けられています。

官房の呼称

中央省[[庁再編]]の際、新府省庁の官房は「内閣府大臣官房」、「総務省大臣官房」、「防衛庁長官官房」のように「府省庁名＋大臣官房（長官官房）」へ表記が統一されました。旧府省時代は、「（頭に総理府を付けずに）内閣総理大臣官房」、「法務大臣官房」などのように「大臣職名＋官房」を正式呼称とするのが多数派でした。

過去に設置されていた官房

過去には、以下の機関にも官房が設置されていました。

局長官房
総理府特別調達庁特別調達局
大蔵省印刷局
大蔵省財務局
農林省農地事務局
郵政省地方郵政局
郵政省地方電波監理局
北海道開発[[庁]]北海道開発局
税関長官房
地方長官官房
総監官房

脚注

注釈

（注釈は省略）

出典

（出典は省略）

参考文献

今村都南雄「官房」『世界大百科事典』（2005年改訂版）平凡社、2005年
大森彌『官のシステム』（行政学叢書4）東京大学出版会、2006年
藤田宙靖『行政組織法』有斐閣、2005年

官房